最近、ある好調なハイテク企業の経営会議の席上で幹部の1人に、彼にとって最も難しい問題は何かと聞いたところ、日本企業との激しい競争だとか、革新技術を常に生み出さなければならない業界の厳しさというような答ではなく、その返答は単純で、「新しい投資プロジェクトの構想をトップに納得させ、役員会を通すことだ」ということだった。

 投資プロジェクトを企業の資本予算委員会にかけてこれを承認させる仕事は、幹部の企業活動を通じて最も挫折感に満ちた報われない経験の1つだということは、多くの役職者が等しく感じていることであろう。

 典型的なケースでは通常、委員会は2つのグループにわかれる。すなわちプロジェクトが何を実現するかを中心に見る戦略志向の人は、それがどれだけのコストを伴うかを見ようとする計量分析タイプの人と、真っ向からぶつかる。

 この両者間のギャップをうめるために著者は投資についてのソフト面の議論に、より強固な分析視角を持ちこむよう提案する。彼の提案では投資の機会をその企業の将来の成長についての選択権(オプション)として考えるようすすめる。証券の場合の買入償還のオプションのように、企業成長のオプションは、それを保有する企業にとって現実的な価値があり、将来の投資計画のほとんどは、こういう考えで分析を進めることができる。

 将来発生するキャッシュフローを割り引くいわゆるDCF(discounted cash flow)法の使用がふえるようになってから、ほとんどの経営者が複雑な投資の意思決定の評価において、ますます難しい選択を迫られるようになった。リスクが大きく目標レベル以下の利益率しかもたらさないが、将来戦略的価値のある機会を創り出すプロジェクトを実行すべきか、さもなくばリスクの少ない、より短期的に利益のあがる賭けを採用すべきであろうか、といった選択である。

 急速に成長しつつある市場をもち、それに対応しようとする多角経営の企業であれ、かつての競争力を回復しようともがいている伝統的ないわゆる煙突会社であれ、選択はなされなければならない。テクノロジーを基盤とする大企業の例をとってみよう。この会社では、外部資金の導入を避けるために支出の削減計画を行なっているにもかかわらず、資本予算委員会は、自社のパイロット・プラントで生産することに成功した新しい自社開発新素材の、大規模生産のための工場建設という特別プロジェクトの検討を決定した。

 通常の現在価値法によれば、このプロジェクトは高い建設コストと低い予想キャッシュフロー、それに循環的な変動に対する敏感な反応という組み合わせで魅力のないものとなってしまう。このプロジェクトの反対派は、このプロジェクトが会社の公表利益を損ない、短期のキャッシュフローを減少させ、すでに低い株価を一層低下させるだろうと主張した。

 肯定派はこのプロジェクトの長期的な戦略利益を指摘した。すなわち、この新素材の広範な利用により、新しい産業的な発展と設備能力拡張のプロジェクトが、まさに滝のごとく奔流するだろうと主張する。彼らによれば、このプロジェクトの価値は、新しい工場から直接発生するキャッシュフローにあるのではなく、企業成長の機会にあるのだという。最終的には、肯定派が同社の伝統的な企業カラーに陥るまいとする姿勢を示して他を圧倒した。彼らは、第二次大戦の直前に同じようなプロジェクトを同社が遂行したのを想い起こした――この会社の戦後の成功のほとんどが、このプロジェクトによっていたのである。

 予算委員会は最終的にこのプロジェクトを承認したが、不確定要素のあることと強力な分析面でのサポートがなかったために、最終的な資金供与を1年間延期した。結果的には、この新素材は成功した。効率的な生産方式も実現したし、ユーザーの受入れもよかった。また新しい分野への応用も増殖して拡大した。しかし、当初の遅延が結果的にはマイナスとなってしまった。競争企業の代替品が、この新素材の主要市場で初期の足がかりを確保してしまい、そのために、この会社では当初計画した以上に資金投資をせざるをえなくなったからである。

 では、このプロジェクトの推進派の人びとは、どうしたら資金を直ちにつけるように議論をより説得力のあるものにすることができたであろうか。より単刀直入にいえば、推進派の議論をバックアップするための歴史的事実がなかったならば事態はどうなっていたであろうか。この投資に関する社内の議論のなかでも"ソフト"の戦略上の側面において、ハードで強固な議論を展開するには、どんな分析方式を用いたらよいのであろうか。