MBA(経営学修士)は、その職責を全うする能力を身につけているのか。それとも、ビジネススクールは、理論には強いが実務には弱い未来の最高経営責任者(CEO)を、産業界に送り出しているのか。MBAと一緒に仕事をしたり、MBAを指導したことがある人、あるいは自身MBAの資格を持っている人なら、この問題に答えるのはさほど難しくはなかろう。

 しかし、この問題から一歩踏み込んで、ビジネススクールの教科課目について、ある目的を持って吟味することは、はるかに困難なタスクといえよう。

 この調査報告は、その目的に向けての第一歩である。MBAに密接な利害関係を有するすべての関係者の意見をまとめた系統的調査は、これまでのところほとんど発表されていない。この点に注目した著者は、フォーチュン誌500社の社長、人事部長、ビジネススクールの学部長、教授陣、それに最近のMBA同窓生を対象として、教科課目に関連した各種の問題について、アンケート調査を行なった。その結果は、決定的ではないものの、多くの問題を提起している。

 調査結果によると、ビジネススクールとその卒業生に対して、最も要請される点はなにかという問題について、産業界と学界とはお互いの視点が違っていることがわかる。MBAが雇用主および自分自身の将来のために、その能力をいっそう開発するためには、企業の経営者も教授陣もともに、これらの調査結果について、真剣に考えてみる必要があろう。

 1970年代には、多くの企業で出世コースに乗るためには、MBA(経営学修士)の資格を持つことが必須条件とされた。したがって、当然のことながら学校側としては、このようなニーズに対応して、MBAの供給を増大した。ちなみに、1970年には新卒のMBAは、2万1000人にすぎなかった。それが1983年には、大学院ビジネスプログラムを持つ約600校を合わせると、実に6万3000人ものMBAが誕生した。その結果MBAは一種の買手市場となり、やがて景気が後退するにつれて、MBAの供給過剰問題が深刻化するに至った。

 多くの企業では、MBAとMBA資格の評価をいっそう厳格に行ない、ビジネススクールで使われている教科課目やアプローチに批判の目を向けはじめた。そして、MBAはいったいどのような必要性と価値を、企業にもたらすのだろうかという疑問を投げかける。

 いっぽう、このような企業側の批判の声を、相手が聞き流しているわけではない。ビジネススクールの教授陣も、果たして自分の学校が、産業界の複雑多岐にわたる厳しい現状に対処し得る人材を送り出しているのかと疑い始めている。そして、MBAの価値を最も高める教科課目の内容を確認しようと努める教授陣は、"MBAコース"は、教科書や講義のほかに、学生に対していったいなにを提供しているのかと自問する。

 それでは、現在のMBAプログラムとその卒業生は、どのように評価されているのだろうか。この問題について広く内外の意見を求めるため、私どもは企業のエグゼクティブとビジネススクールの教授陣を対象とした調査を行なった。調査結果によると、両グループには、多くの点で意見の一致が見られるものの、基本的な問題とその解決策の選択について、しばしば見解を異にしている。

 例えば、現在のMBA卒業生の書いたり、しゃべったりする能力については、両者とも満足していない。両グループの多くの回答者は、この極めて重要な経営研修プログラムについて、ビジネススクールはその役割を十分に果たしていないと考えている。しかしビジネススクールの学部長や教授陣は、卒業生を雇い入れている企業経営者よりいっそう厳しく、卒業生のコミュニケーション技能を批判している。

 いっぽう、経営者側は日常業務に関する意思決定能力の点で、MBAに不安を感じており、MBAはもっと多くの"基礎的"技能を修得する必要があると考える。