1974年以来、数多くの研究者が、1700の製造事業に関するPIMSデータベースのその時々の状況をスナップ写真のようにとらえ、どういう具体的戦略を採るべきか浮き彫りにする、図式を探り出そうとしてきた。こうして明らかにされたのは、マーケットシェアが企業成長の鍵であり、シェアが大きければ事態は思いもかけぬほどうまくいく、ということである。

 本稿で著者は、これまでとは違う時系列分析手法を応用してPIMSデータベースに迫っている。ROI(投資収益率)を高めようと投資に力を注ぎ、マーケットシェアを伸ばし、製品の品質を高め、売値を下げ、その他様々の手を打つと、現実にはどういう結果が現われるのか、本稿で明らかにされている。

 こうした情報があれば、経営者は何かあるアクションをとる時、それに伴うリスクを見通し、業績改善の見込みを予想し、また競争にどう対処するのがよいか判断もできるようになる。

 1974年にストラテジック・プランニング協会の研究者が個々の事業部門の実態を示すデータを初めて公表し、強烈な印象を与えて以来、経営者は市場に働く経験法則と、その相互作用に対応を迫られることとなった。

 □ なるほど市場で大きいシェアを握っている事業は、シェアの小さい事業より収益率が高いといえる。だが、シェアの小さい事業の経営者が、遮二無二シェア拡大戦略をつっ走るのは現実的で有利だといえるのだろうか。

 □ 確かに資本集約的事業のROIは比較的低いといえる。しかし、そうした企業の経営者は投資を引き締めるべきなのだろうか。

 □ なるほど購入比率の大きい事業は人目をひくほどの利益をあげている。しかし、こうした事業の経営者は川上統合を避けるべきなのだろうか。

 事業部門のとるべき戦略について、このほかにもいろいろな疑問が、PIMSデータベースを根拠に多くの研究者から投げかけられてきた(PIMSデータベースの概要についてはかこみ記事を参照のこと)。こうした研究者が普通とる方法は、PIMSに加入している1700に及ぶ事業の1期4年間の平均業績を詳細に検討し、こうして明らかにされたクロスセクション分析が示す図式を根拠に、戦略を推奨するというものである(本稿末尾の参考文献リストを参照されたい)。

 しかし推奨されたアクションに従った場合、経営者にはどんなリスクが待ち受けているのか。こうした分析は明確にしておらず、したがって、さきに提起した戦略上の問題にまともに答えるものともなっていない。

PIMSデータベースと時系列分析

 本研究の成果は、PIMS(市場戦略が利益に及ぼす影響に関する研究)に加入している460の事業から得られたものである。このデータベースは、マサチューセッツ州ケンブリッジにある非営利・非課税団体のストラテジック・プランニング協会(SPI)が収集、管理している。この460の事業は、1700を超える事業からなるデータベース全体のなかから抽出したものである。本研究の対象としたのは、北米大陸にある製造事業であって、少なくとも7年間のデーターが利用できるものに限った。SPIの定義に従えば、"事業"とは、企業内の事業部、製品ライン、プロフィットセンターであって、社名もはっきりしている一群の会社と競争しながら、明確に識別できる顧客グループに向けて特定の製品を販売しているものである。

 収益、コスト、投資に関する情報は、生の数字そのままではなく、比率や伸び率としてしか利用できないように変えてある。このデータベースに収められている情報は、社内要因として投資集約度、製品品質、労働組合組織率、損益計算書と貸借対照表から抽出した財務指標、それに事業の対象としている市場、競争相手、供給業者、顧客に関するものである。

 本稿でサンプルとした460の事業は、PIMSに加入している事業を代表する姿になっていて、耐久消費財(12%)、非耐久消費財(12%)、資本財(23%)、原材料と半成材料(11%)、部品(26%)、補充品と消耗品(16%)の構成である。この460の事業を表わす具体的な指標、例えば初期および終期のマーケットシェアは、分布がデータベース全体に類似したものとなっている。

 検討を加えた要因は表1に示してある。経費率以外の数値はデータベースから直接利用できる。直接取引している顧客の集中度と労働組合組織率は、初回調査の際しか記入しないので例外であるが、それ以外の要因は初期値とその後の変化とを利用した。

 事業間の差には業界の特質に起因するものもある。そうした差を識別するために、最上位のグループと最下位のグループに入っている事業が、それぞれの要因からどんな影響を受けているか調査した。

 PIMSを初めて知った人は、よくタイプの違う事業ごとに別々の統計モデルを作ってはどうかと提案する。筆者は他の研究者との共同研究ですでに明らかにしてあるが、表1に示したような要因を組合わせて統計モデルを作ると、事業のタイプによって生じる本質的差異は読み取れなくなってしまうのである。同様に、本文でも説明しているように設備稼動率、実質売上の伸び、実質市場成長、そしてそれらの変化は、景気変動の影響を把握するのに役立つ。それでモデルでは時期の違うデータでも同一に取り扱っている。

 回帰モデルにはSPIのROI基準値を変数として入れてある。この値はPIMSにインプットされているおよそ1700の事業からSPIがクロスセクション回帰分析によって求めたもので、要因の値が類似している事業全体を代表する平均ROIである。基準値の回帰分析は4年を単位とする1期間についてのみ個々の事業の平均業績をインプットして行なっている。

 本稿では"成功の確率"という言葉を用いている。これはほぼ同等の事業のうちROIが向上したものの比率のことである。情報をさらに追加して、もっと企業間の類似の程度を高めれば、確率推定の確からしさを高めることは可能である。例えばサンプルである460事業のなかの1つだと分かっているだけならROIが向上する確率は55%と推定するが、重要な要因についての情報を加えれば、ROIがどちら向きに変化するか正しく予測する確率をさらに高めることはできる。

 これは、われわれの予測と実態とが合致する事業の割合が、増えるということである。