ほどほどにもせよ成功を収めた創業経営者ともなると、まずその大半は成長意欲の虫の餌食となってしまう。自分の会社の現行商品、サービスの販路を拡大するだけでは終わらず、最終的にはまったく新しい商品、サービス分野にまで多角化しないと収まらないのである。

 企業成長に順風満帆の財務、社風といった後ろ楯がつくと、ますます夢はふくらんでしまう。企業は成長していることこそ好調の証、というのが一般的概念である。

 しかし、従業員、商品、販売などの数字面で目を見張るような成長をとげる企業の利益が伸びているかというと、必ずしもそうではない。著者が指摘するごとく、事実はむしろ逆で、急速な成長が小規模企業の健全な財務を危機に追い込むケースがあるのだ。本稿で著者は、多角化、吸収計画によって急速な成長を求め、成功した4社がたどった体験を引用しながら、事業拡大がもたらす問題のほうが、それによって生じる好機よりもはるかにウエートが高いことを明らかにする。

 結論は、急ピッチで事業を拡大してきた企業のマネジャーたる者は、往々にして薄紙を貼り合わせたように伸びきってしまい、当初企業を成功させた主力分野に力を集中できなくなってしまう、という点にある。それだけに、老練な社外重役に新しい機会に関する情報のフィードバック、助言面で頼り、いたずらにのめりこまぬようにと諭している。

 エグゼクティブで、成長にとりつかれていない者は少ない。販売をたえず上昇させていかねばならないという脅迫観念に追いまくられているのだ。彼らの世界の回転軸は、前年、前四半期、さらには、1ヵ月単位の販売の推移の比較である。1日に何回となく赤ん坊の体重を計り、1オンス増えればこ躍りする両親みたいに、とにかく大きくなることはよいことだと思い込んでいる。

 それほどでない、良識あるエグゼクティブにしてもさまざまな理由から、成長以外に目もくれなくなってしまう。第1には、成長こそ文化的価値、拡大しない企業はおき去りにされてしまう。成長に失敗することは恥辱と同義語なのである。確かに、エグゼクティブの報酬は企業拡大次第である。企業規模が大きくなれば、報酬もアップする。上場企業におけるエグゼクティブの株式買い取り選択権(ストック・オプション)の値打ちにしても、株価次第だが、その株価は企業成長率次第ということになる。さらに極めつきの理由は、競合企業からシェアを奪ったり、新分野への参入計画に挑戦することは刺激的であると同時に、心に充足感を与える行為だという点にある。

 事業拡大の促進要因としては、ちょっとおもてには出てはいないけれども重要度の高いものに、増販が収益に与える影響度がある。経費の枠が決まっているとすれば、収入を上げることで短期的な目に見える底上げ効果をもたらせるからだ。

 以上あげたような圧力要因に動かされて、エグゼクティブは成長路線の記録作りに万難を排しても立ち向かっていくものなのである。売上が鈍化しているような時には、会計年度の末ともなれば猫の子一匹でも出荷しようとあらゆる点に気を配る。時には、未出荷分までも出荷記録に載せてしまったりもする。ひどい時には架空の顧客への販売を創作してしまうことすらある。

 だが逆に、業績が上々という時にはマネジャーは先行きの落ち込み時への手当てとして先ほどとは逆の方法をとる。出荷を遅らせ、会計上の留保財源を蓄積することに努める。いずれまた売上が落ち込んできたような時に利益を伸ばすための隠し資金である。"収益をマネージ"する行為は、今や芸術の域にまで到達している。

 基本的投資決定に成長執念が及ぼす影響は、企業の健全な財務を深刻に悪化させかねぬほどの影響を持つ。増収増収と追い立てまくられる企業というものは、自社商品を欲しがっていそうなありとあらゆる顧客を追いかけまわそうとしてしまう。マネジャーは投資効率を無視して、大衆品から高級品、一般向きから特殊用と商品のフルライン化に狂奔してしまう。大口顧客も小口顧客も、アフターサービスにうるさい顧客であろうと、おとなしい顧客であろうと、とにかく売込み先を探しまわる。