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クラクイラスがコリントから足踏式ろくろを買い付ける契約を結んだとき、この資本投資が4人のアテネ人の間に、活発な論議を巻き起こすという意識にはほとんど気づかなかった。論議のテーマは、オリーブの収穫、埋葬塚の建設、インプット・アウトプットの測定、参画経営など広範囲におよんだ。クラクイラスの作業所では、かつて20人の職人が1日200個の壺を生産していた。ところが滑車付きの新型ろくろ導入後は、12人の従業員で同数の製品をつくれるようになったという。
そこで、生産性とはなにか、目標への各従業員の貢献度をどのように測定するのか、雇用主はどのようにして、社員の生産力を推進したらよいのか、といった問題が提起される。その動因となったのは、ニキアス他7名の解雇である。討論の参加者は、ニキアス、イポニコス(金持の地主)、カリアス(政治家、市議会のメンバー)およびソクラテス(哲学者)の4名。
カリアス ニキアスがやって来た。例によって社会的不正とやらで悩んでいるらしい。
ソクラテス グッドモーニング、ニキアスさん。朝っぱら顔をしかめて、いったいどうしたんですか。
ニキアス みなさんグッドモーニング。首になった朝が"グッドモーニング"と言えるのならね。
イポニコス まあお座りくださいニキアスさん。そしてなにが起きたのか話してください。ソクラテスさんがいつも言っているでしょう。"この世には善に汚染されない悪なんてない"と。
ニキアス それはわかっていますけど、いまの私にはピンときません。これからどうなるのかお先真っ暗です。私は過去3年間クラタイラス壺製作所で働いてきました。今朝もいつものように出社すると、経営者のクラタイラスから、7人の仲間と一緒に、"君たちはもう来なくていい"と言われました。滑車付きの新型ろくろを設置したので、これまでのように多くの人手がいらなくなったのだそうです。それでいともあっさり首になりました。
カリアス そんなに急な話ではなかったのと違いますかニキアスさん。1ヵ月近く前にクラタイラスが、コリントから買い付ける新型ろくろのことを、市議会で公然と話していましたよ。生産性を向上するために、新型ろくろを導入する方針を、彼は秘密にしていたわけではないんです。会社をつぶさないためには、それよりほかに道はなかったのだそうです。しばらくの間、あなた方はつらいでしょうが、生産性を向上しなければ、全員が失業してしまいます。しかも、彼やほかの企業家が生産性の向上を図らなければ、アテネ自体がコリントやほかの都市に遅れをとり、すべての市民にその影響がおよぶでしょう。
ニキアス そのことはわかっていましたが、ほかに私たちにできる仕事があるのではと期待していました。社員から仕事を奪ってなにもさせないほうが、有効に働かせるより生産的なのでしょうか。大勢の人びとが失業したら、アテネの生産性は上がるとでも言うのですか。私に言わせると、そのような偏狭な生産性の向上は、クラタイラス以外のだれにも役立たず、彼の欲の皮をますます突っ張らせるだけです。



