数多くの市場で事業活動を行なう国際企業は、複雑性に対処するために、まさに混沌と呼ぶべきものをいかに組織化するかという問題に全力で取り組んできた。コンサルタントや学者の提案には何ら欠陥はなかったにもかかわらず、功を奏した解決策はなかった。彼らは新しい問題が起こるたびに、1つのアイデアから他のアイデアへと飛びついた。時には、組織再編成のための万能薬を発表しておきながら、翌週にはこれを放棄してしまうという有様であった。このような熱狂的な組織再編成のために、本来の問題の重要性を見すごすことになってしまうのである。

 本稿において、著者は、経営者は適切な組織構造を求めて努力しているが、問題そのものが間違っている可能性があることを明らかにする。すなわち、真の問題は、組織構造を変えることではなく、組織過程を管理することにあるという。

 著者の主張は、成功を収めた多国籍企業10社の詳細な研究に基づいている。これらの企業は過去15年間、組織構造の完璧さを追求してきたわけではない(実際に、これらの企業はすべて15年間にわたって組織構造を変えていない)。むしろ、国際的環境の様々なニーズに対応できる、複雑でかつ弾力的な意思決定プロセスを着実に築き上げてきたのである。

 多くの企業にとって、戦後の最大の戦略的展開は、海外進出であった。それまで成功を収めてきたような、基礎の確かな組織でさえも、世界的規模での活動の管理に際しては難しい問題に直面する。海外拡大に邁進している時期には旧来の組織に依存するが、昔ながらの方法では対処できなくなってくる。

 1960年代には、国際化への挑戦の答えは明らかであるように思われた。管理者たちは、単に主要な戦略目標を確認し、それに応じて企業を再編成するだけで、ことが足りたのである。しかし20年間の努力の後も、"理想的な国際的組織構造"は依然として実体がつかめていない。多くの企業がその発見の希望を捨てていないにもかかわらず、個々にいくつかの成功例が見られるだけである。

 これほど多くの企業が構造上の解答を求めてきたにもかかわらず、十分な結果が得られないのはなぜだろうか。経営者たちは組織構造にとりつかれているが、実は誤った変数に目を奪われているということはないだろうか。筆者が調査した多国籍企業10社の成功例から明らかなことは、組織再編成を繰り返している企業は、その努力の方向を間違えているということである(調査の背景と概要については、以下を参照されたい)。

調査の背景とアプローチ

 1970年代までに、国際的組織の変化の明確ないくつかのパターンが生まれ始めた。もっとも一般的な一連の組織再編成が、国際的組織の諸段階に応じた処方せんとして取り上げられたのもやむをえないであろう。これらのなかで、おそらくもっとも有名な理論によれば、自律的な海外子会社が成長した時には、それらは国際的事業部制構造のもとで統合されねばならない。製品多角化が海外で進み、海外の売上高と利益が規模のうえでも戦略的重要性のうえでも増大した時には、世界的製品別事業部構造か地域別事業部構造を採用すべきである、と段階理論は提唱する。最終的に製品面と地域的な多様性が増大し続けた場合には、グローバル・マトリックス構造ないしはグリッド構造が必要になる

 数多くの企業がこの構造的発展に従った一方で、そうでない企業もまた多くあった。調査プロジェクトではアメリカに拠点をおく多国籍企業10社を調査した。これらは、理論に従えば世界的製品別構造、地域別構造、またはマトリックス構造をとっていなければならないが、現実には初期段階の国際事業部形態を維持していた。各社との集中的なインタビューを通して、彼らがどのようにして戦略的ニーズの変化に対応してきたかを知ることができた。トップマネジメントの広範な考え方と前提、および使用された特定の手段のなかに、上記のマクロ構造段階理論に代わる対応策が見出される

*John M. Stopford and Louis T. Wells, Jr., Managing the Multinational Enterprise, (New York: Basic Books, 1972).

†本調査の詳細な報告は未刊の博士論文に収められている。
"Multinational Structural Evolution: Changing Decision Environment in International Divisions", Harvard Business School, 1979.

 筆者の調査した企業は、どこも事業の再編成を繰り返してきたという事実はない。各社は海外事業部を持った単純な構造を長年維持してきた――これは多くの経営学者が初期段階と呼んでいる組織形態であり、世界的規模での成長のごく初期の段階においてのみ有効だといわれている。

 これらの企業は国際化への挑戦を、適切な公式的組織構造を見つけることではなく、複雑な意思決定プロセスを形成し、維持することであると理解している。もっとも重要な課題は、国際戦略を持った企業が直面する複雑なニーズを反映し、それに対応した、管理の新しい展望、態度、プロセスを開発することである。そのようなプロセスをとり入れるのは時間がかかり、微妙で、困難なことのように見えるかもしれない。しかし、この挑戦によりよく対応することを願っている企業は、これらの成功例によって確立されたパターンを1つの指針として使うことができよう。

破棄された約束

 これらの企業がなぜ成功したかを理解するためには、まずそのほかの企業が失敗した理由を考えなければならない。企業が、急成長している海外事業活動を統制することを負担と思い始めると、経営者は直観的に組織構造上の解決策を探し求める。この世代の経営者は、戦後の製品多角化の波が機能別組織構造から事業部制組織構造への大規模な転換を引き起こした時代に、最前線に立っていた人びとである。彼らは何よりもまず、戦略と組織構造の間の強力な関係を知っていた。伝統的な考え方によれば、事業部構造が多角化戦略の実行に役立ってきたならば、それに匹敵する組織構造が新しい国際戦略の展開を容易にするだろうということになる。

 経営者が組織再編成を行なう理由はほかにもある。例えば、公式構造の変革は、経営者の責任や役割関係を再定義するための強力な手段と考えられている。トップマネジメントは明確な選択を行なうことができ、即座にインパクトが得られるし、あらゆる階層レベルに強いシグナルを送ることができる。さらに、他の多くの企業も同様の行動をとっているという理由から、企業は国際的な組織再編成を行なうことに自信を持つ。事実、組織再編成のパターンというものが一般的になってきており、経営学者たちもこれを論じ、分類している。