技術革新型の企業は、他社がすぐには模倣することのできない製品や生産方法を導入することによって競争に勝ちたいと願う。しかし、このような新発見をもたらしてくれる研究には、長い時間と費用が必要であり、マネジャーは、この種の研究に付随するリスクと得られる利益との比較考量に困難を感じる。マネジャーは、多面的な評価をするのに必要な技術的バックグラウンドをもたないのが普通であり、一方、R&Dスタッフは、マネジャーが知る必要のあることを十分に伝え、理解させることができない。

 本稿の著者によれば、正しい方策は、大きなコストとリスクを不可避的に伴う不確実性を脱して、成功の機会を正しく評価し、R&Dプロセスのすべての段階で確固とした選択を可能ならしめることにある。このアプローチに従えば、マネジャー、R&Dスタッフのいずれも何をなすべきかを、よりよく理解することができる。

 イーストマン・コダック社の会長の言葉をかりれば、「何を研究し、何を研究しないか、またプライオリティーをどうするかを決めるための意思決定は、ゼネラル・マネジメントに当たるものが直面する、最も複雑でしかも重要な意思決定である」。この言葉は、研究計画の最大の困難は戦略的に価値のあるプロジェクトを選定することであるという大多数のマネジャーの直観的理解を表現している。多くの経営管理者にとって、不確実性は、このR&Dの意思決定における最も威圧的な段階で最大となる。

 アメリカの産業界においては一般に、マネジャーは研究上の確固としたバックグラウンドに欠けており、R&Dスタッフはまた、マネジャーが理解しやすく信頼感をもちうるように意思疎通をするのが上手でないことが多い。総括的経営管理者(ゼネラル・マネジャー)とR&D間のコミュニケーションは、それが最も有効に機能しなければならない時に――つまりR&Dの戦略上の計画と意思決定の段階において――最も薄弱となることが多い。

 R&Dは一般に、その計画立案に際して、ビジョンと技術的判断から結論を導き、難解な技術的専門用語と希望そして不確実性に包まれた計画を経営管理者に指示する。経営管理者はリスクと成果の観点から思考し、R&Dの技術面における洞察には欠けている。その結果、両者に共通の場はほとんど得られない。

リスクと不確実性

 技術プロジェクトの成功にはリスクと不確実性とが明らかにある重要な役割を演じており、またマネジャーは、この2つの言葉を混乱して理解している。したがって定義をしておくのが順序であろう。

 Donald A. Schonは適切な定義を与えている。「リスクは確率計算に適合する。リスクは量的な表現に適している――1処理単位の部品から欠陥部品を発見しうるチャンスは、100のうち2であるという場合などがその例である。費用便益分析のフレームワークにおいては、あるイノベーションのリスクとは、失敗の確率の計算に基づいて、失敗したときにどれだけの損失を容認しうるかということを意味する。

 これに対して、不確実性は全く別の問題である。行動することが要求されているが、しかしリスクの分析が不可能である場合に、状況は不確実になる。例えば、ある1人のギャンブラーが、ブラックジャックの正直ゲームで、賭率を知ってもう1枚のカードを要求するときには、彼はリスクを負う。しかし、このギャンブラーが、賭率をはっきりと知らないとか、あるいはゲームの正直さに確信がもてない場合には、彼は不確実性の状況に陥る」。

 Schonは、リスクと不確実性の意味の違いを、研究計画と技術イノベーションに関連させて説明している。「企業で技術イノベーションに携わる者は、行動が必要であることが明らかであるにもかかわらず、行動の内容そのものは明らかでないという状況に直面する……。

 こうした状況が続くかぎり、企業は有効に機能することができない。なぜなら企業は不確実性――達成すべき明確な目標、成果の測定方法、コントロールのための適切なコンセプトのいずれも存在しない状況――に適合しうるようには、つくられていないからである。企業は不確実性のもとでは機能しない。しかし、リスクを操作するには十分な装備を有している。企業はまさに、リスクが何であるかを鮮明にし、それを分析、評価し、操作するためにつくられた組織である。したがって、企業における革新的な活動は、不確実性をリスクに転換させることにある(1)」。