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経営学はどのような意味を持ちうるか
「日本の企業は世界で活躍しているのに、日本の経営学研究はなぜこれほど遅れているのか」。これは学会などの場で、世界中の研究者から筆者が投げかけられてきた疑問である。
経営学は日本のビジネスパーソンにとって身近な存在になりつつあるが、残念ながら、国際学会等の場で日本人研究者の発表が多いとはいえず、グローバルに見れば周回遅れの感は否めない。結果として、その本質が十分に理解されないまま、わかりやすい言葉だけが独り歩きするような状況が散見される。
環境変化の速さがVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の4文字に象徴されるいま、そしてこれから先の時代において、経営学は学問として、また企業経営者とそのステークホルダーに対して、どのような意味を持ちうるのか。
本稿ではまず、経営学の中でも筆者が専門とする戦略の分野を念頭に置きながら、その変遷を振り返り、経営実務との関わりを明らかにする。次に、経営学という社会科学に課せられた使命、および科学であるがゆえの限界について考える。そのうえで、これからの経営および経営戦略の研究に関して、筆者個人のバイアスを多分に交えた考察を行う。紙幅の都合で議論を簡略化しているところもあるが、本稿が「知識」というより「深く考えるきっかけ」となれば望外の喜びである。
過去50年間における戦略研究の変遷
経営学は、個人の心理的モチベーションなどを対象にした分野(組織行動やHR〈ヒューマンリソース〉など)から、企業を対象とした戦略、組織、さらには産業を巻き込む分野まで、その扱う領域が幅広い学問である。
経営学の歴史に目を向けて両者を比較すると、個人を対象にした分野の研究のほうがはるかに古く、戦略は経済学から派生した比較的若い研究領域である。また、個人が対象の場合、学生などランダムなサンプルを用いて科学的な検証が可能だが、戦略の領域では効果検証(例:同じ企業がM&Aを行う場合とそうでない場合にどちらの業績がよいか)が難しいがゆえに、後述する「科学」としての地位は相対的に低く見られてきた。
ただし、近年は戦略の領域でも、より緻密な方法論を取り入れた研究が進められている。加えて、社会学や行動経済学など他分野の知見も取り入れながら、その研究対象も時代の変化に応じて変わり続けてきた。一方で、そのような変化は企業経営の流行りすたりに合わせた結果でもある。
図表「戦略研究の50年間の変遷」には、1970年代から2010年代(2014年頃まで)の主要トピックの変遷が簡潔にまとめられている。図表が示す通り、業績Yに影響を与えるXが、(1)外部環境に注目するか、内部環境に注目するか、(2)組織のマクロ的な要因を取り上げるか、ミクロ的な要因を取り上げるかと、戦略経営の関心は「外部環境」「内部環境」「マクロ」「ミクロ」を振り子のように行ったり来たりしてきた歴史がある。



