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次なる主張には気持ちを惹きつけるロジックがある――新しい技術、事業への投資には宿命的にリスクが付きまとうものであるとするならば、いっそうのことベンチャーキャピタルという形で経営の一角を確保してヘッジしておいたほうがよいのではないだろうか。事業が順調に進んだら、外部のベンチャーを吸収してしまえばよいし、かりに調子がおかしくなったり、事業計画の変更が必要となれば、投資家としてその会社を売りにだしてしまえばよい。
それで利益が出れば理想的だし、そこまでいかなくとも、それまで不案内だった技術、商品、市場に関する理解を深めることができる。ベンチャーキャピタル方式をとることで企業は多角化をめざしながら、貴重な首脳部の時間と神経とをむだにしなくても済む。ただ結果を待っていればよく、事業の先が見えてきた段階で、さらに介入を深めるかどうかを決めればよい――という主張である。
今回の研究はしかし、まったく逆の方向を示している。著者も指摘するごとく、現実にはベンチャーキャピタル事業を成功させようと思えば思うほど、多角化という本来の目的に必要な企業能力を危険にさらしているのである。
企業は年をへるにつれて、しだいに企業内多角化の推進が困難となってくる。保守的傾向の企業統轄者というものは、経営効率を順守するあまり、改革派、創業経営者を更迭してしまうもので、代わって頻発する問題を処理するために成文化された社内規範が制定されるからである。その結果として、新事業の機会に対する反応力を失うと同時に既存事業ラインのミスを発見して、企業資源の割当て変更をはかる能力をも失ってしまう。
それだけに、これは当然といえるだろうが、小企業のほうが大規模かつ官僚化した企業よりも改革志向が強いと指摘する関係者は多い。この推論にはもちろん反論も少なくない。1960年代から70年代にかけて小企業の手によってIC、コンピュータ技術面で数々のイノベーションが実現しているが、それに数的に匹敵する改革成果が石油化学、遠隔通信の分野で大会社の手でなしとげられているからだ。とはいえ、大会社の改革能力はということになると、やはり疑問は残る。その報償体系は自分の貯金と職歴を賭けて新しいベンチャービジネスに挑もうとする創業家肌の人間にはあまりしっくりとはこないし、その階級組織では真の改革派を識別し、これを顕彰することは難しい。
企業首脳陣は、このような官僚的抑圧に抗すべく、本社とは別にベンチャー事業の設立やベンチャーキャピタル運用資金の本社負担を提言してきている。最初の方法では、確かに複数事業部制の企業に起こりがちな組織上の報告手続きを最小限にすることができるが、その一方で新しいベンチャービジネスの首脳がオーナーとしての直接的リスクを背負うことになる。第2の方法となると、技術改革、多角化は、いちおう企業とは組織の異なるところでなしとげられることになる。
しかし、今回のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)運営研究でみるかぎり、どちらにしても企業多角化というメリットを実現するには、必ずしもふさわしい方法ではない(以下で今回の研究対象となった企業のプロフィールを紹介している)。
研究調査の概要
ノーマン・ファストが18社を調査、さらに3社の拡大調査に基づいて発表した企業内ニューベンチャー事業部(NVDs)研究によれば、1965年から1975年までに米国100大企業中の30社、フォーチュン500社ランキング企業の25%までもが、この種の機構を導入し、新事業を発展させようとしている。こうしたNVDのうち多くは短命に終わっている。調査対象となったNVD18社の平均寿命は、わずか4年にすぎない(1)。
対照的に今回の研究では、コーポレート・ベンチャー・キャピタル事業ユニットを使って新事業の発展に資金援助をし、成功した時点で、こうした投資対象先企業を吸収する意図を備えている大手産業財会社に焦点を絞っている。なお、シティコーポ、バンク・オブ・アメリカといった金融会社は除外した。ベンチャーキャピタルの目的である融資事業がこれらの会社の本来の業務であるからだ。同様に、アナログデバイシズ、ウエスタンデジタル、ダイサンといった小規模ハイテック企業も検討対象としなかった。こうした企業を対象に、企業投資家たちは自社のR&D資金を投入し、経営機構にむりな圧力をかけたりしないで新しい関連市場に参入しているからだ。こうした活動の広がりをおさえて、次に個々に検討してみる。
ゼネラル・エレクトリック・ベンチャー・キャピタル・コーポレーション(GEVENCO)
ゼネラル・エレクトリックの100%子会社。1968年設立以来、ビジネス・デベロプメント・サービスという社名で知られており、ゼネラル・エレクトリックの本社直属融資スタッフ組織の一翼を担ってきたが、81年に組織変えと同時に社名を変更、それまでとは異なる企業内位置を与えられ、責任範囲も拡大している。GEの分野別経営機構では、サービス・資材分野に属し、本来のベンチャーキャピタル活動に加えて、株式を公開している企業への投資も行なっている。コネチカット州フェアフィールドを本拠とするGEVENCOは本来は、技術を開く窓であり、多角化の手段として設立されたもので、同社の公開報告書が記すごとく、技術革新や小規模企業に対する関心も抱いている。GEVENCOは多角化成功に貢献した実績はなく、また財務的に成功したのも1976年に多角化使命から解放された後である。
エクソン・エンタプライズ
(エクソン・コーポレーションの事業部)
1963年、社内新事業開発および新しい投資対象を探索するツールとしてのベンチャーキャピタルとして設立された。エクソン・エンタプライズは、これまで親会社に新市場、新技術への手がかりを与えてきたが、財務的に成功してはいない。また既存の新事業の育成に力を入れており、1979年以降、ベンチャーキャピタルとしての投資は行なっていない。
サターヒル・ベンチャーズ
カリフォルニア州パロアルトに本社をおく有限共同出資型ベンチャーキャピタル企業。唯一の有限共同出資者は カナダのコングロマリット、ジェンスターで、1970年にその傘下に入っている。以後長期にわたってその業績は申し分ない。投資収益面でジェンスターの期待することは、米国の新産業を刺激するにたるほどの好収益をあげ、同時に知名度を高めることである。サターヒルはジェンスターから独立した企業体となっており、多角化ツールとしては成功しているとはいえない。しかし、その一方で、きわめて有望な投資対象企業であることは証明済みである。
4番目のベンチャーキャピタル事業、アメリカン・リサーチ&デベロプメント(1972年、テクストロン社が吸収)についても研究は行なわれたが、本文では報告していない。
用語の定義:"ベンチャーキャピタル"とは、私設の証券取引所を通じて新設されたばかりで危なっかしい企業、あるいはトラブルを起こしている企業などへ直接証券投資される基金をさす。この場合、全額喪失のリスクがある一方、多大の高収益があがるチャンスもある。ベンチャーキャピタルの投資リスクがどの程度かについての明快な説明はつかないが、私設証券取引所市場や創業経営者の親族、友人たちあたりに付きまとうリスクと似かよったレベルと思われる。さらに定義を確定するうえで役立ちそうな他の特色を列記すると次のようになる。
投資は普通株運用となり、投資会社の収益は通常の所得ではなく、資本利益として課税対象となる。
投資の対象となる相手企業は、概して"若い"し、オーナー経営者が存在し、新技術を活用して新製品を生産している。
投資会社は投資対象企業の経営に直接介入する。数多くの投資先候補を審査し、選びだした数社をさらに厳密に分析したうえで、年々2、3社程度の企業に投資が行なわれる。
投資は、リスクの分散と投資チャンスの取引きのため、通常は他のベンチャーキャピタリストとのシンジケーション方式をとる。リスクに見合う形で、見込み収益はきわめて大きい。
"CVC"(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)とは、企業が実施するベンチャーキャピタルをさす。本文では"スポンサー企業"、"親会社"という言葉を同じ意味に使っているが、これはベンチャーキャピタル計画を擁する企業のことを意味している。CVCは企業内新事業開発計画とはっきり区別しておかなくてはいけない。CVCは従業員の手で独立した形で運営されている外部企業の証券購入を業務としているのである(2)。
(1)非公開の博士論文、"The Evolution of Corporate New Venture Divisions," ハーバード・ビジネススクール、1977年。
(2)ニューベンチャー部の議論のためには、Homan FastとEdward B. Roberts, "New Venture for Corporate Growth," HBR1980年7-8月号、DHB1980年12月号、"新ベンチャー戦略による企業成長機会の開拓"。
ベンチャービジネスには、これといった設立原則がないこと、ベンチャーキャピタル投資先の吸収が難しいこと、投資先企業の技術を導入することの難しさ、現実的な投資計画をすすめるには組織の独立性が重要……といった諸条件を考えあわせると、ベンチャーキャピタルを土台とした事業展開が企業の競争力の再強化(もしくは拡大)や、危険収益率の大幅改善に直結するとは、いえなくなる。
CVCの可能性
ベンチャーキャピタル業界には440社が参入しており、35億ドルを運用しているのだが、そのうち大手CVC組織20社で4億ドルを左右している(1)。この業界の広範な活動は、その一端すら水面上に浮かびあがってきてはいない。いや、事実はむしろ逆で、研究対象としてはまことに千差万別、その機構、組織は著しく異なるし、スポンサー企業からかちとっている独立性の度合も、各社マチマチといった状況であることが分かっている。
一方には、完全に独立したベンチャーキャピタルとなっているCVC事業ユニットがある。逆に、親会社の多角化計画の単なる出先機関に過ぎない存在もある。今回の研究サンプルに選んだ3社は、この独立度領域で互いに異なる位置にある。



