映画監督が"アクション"と叫び、俳優や技師たちがひとつのシーンを撮り始める。そのとき何が起こるのだろうか。"アクション"と聞けば、たいていの人はハリウッドを思い浮かべるだけであるが、俳優や映画技師にとっては"仕事を始めろ"という命令なのである。見かけは華やかでも、映画づくりのチームというものは作業システムであり、その目的は映画を完成させることである。そして映画が完成できるかどうかは、そのために短期間結束した専門技能者の仕事ぶりいかんにかかっている。

 映画づくりのチームは数多くの点で、科学的なプロジェクトやコンサルティング・プロジェクトによく似ている。すなわち、目的のために必要な人員を確保し、共同作業を円満かつじん速に始めさせ、やる気をおこさせ、日程どおりに成果をあげさせ、孤独な作業から生じがちなストレスをうまく処理できるかどうかが、成功のカギになっているという点である。

 著者たちは、実際の映画制作状況を観察し、そのなかで映画監督がどんなふうにして作品を仕上げ、問題点をどのように処理していったかを調べている。

 映画制作チームのことが話題にのぼると、たいていの人は野外撮影(ロケーション)を思い浮かべる。若い人ならマーサズ・バインヤードの沖合で、人食いザメと格闘するロバート・ショウを、年長のファンならデス・バレーを行進するジョン・ウェインと合衆国騎兵隊を思い浮かべるだろう。しかし実際のところ、ほとんどの長編映画は一連の決まった制作段階をへてつくられるもので、撮影はそのなかの一部にすぎないのである。

 映画制作の各段階ごとに、何人かの人が集まって小さな作業グループをつくるが、このグループには組織というものにつきもののモチベーションとか、リーダーシップ、組織の構造、といった問題をかかえている。映画制作の各段階はすべて一時的にだけ存在するシステムで存続期間も限られているし、参加メンバーにも制限がある。システムのなかでメンバーは協力し合い、影響し合いながら目的を達成し、最後は解散する。映画監督は、それぞれの制作段階ごとにきびしい予算と、日程のわく内でさまざまな創造活動を促進し、管理していかなければならない。監督の仕事のなかでも特に重要なものは、創造活動プロセスの的確な管理である。

 本稿では"創造性"という言葉に、芸術上の創造性と、技術上の創造性、という2つの意味を持たせることにした。この点では、他の人がイノベーションと定義しているものと重なると考えている。一時的ということと、創造性の間には強い相関があるし、永続性と、きまりきった仕事との間にも相関があるから、創造性を上述のように解釈することが重要になる。映画の制作チームや、プロジェクトチームのような一時的組織は、アイデアやプランの開発、あるいは製品やサービスの開発のために設置されるし、月旅行計画や建国200年際のようなプロジェクトを遂行するためにもつくられる。そのグループあるいはチームは、当初の目的を達成してしまえば解散する。一方、永続的な組織とは、継続的に要求される製造業務とかサービス業務を、くりかえし遂行するためのものである。

 映画制作チームは、創造活動を行なうための一時的システムであるから、技術的科学的プロジェクト、コンサルティングチーム、タスクフォース、およびその他の短期的に存続する作業グループと多くの共通点を持っている。したがって、映画制作チームについてのわれわれの研究成果は、こういったグループのマネジャーにとっても有意義なものになるはずである。

 映画の製作は、大きく分けて3段階になる。そして各段階ごとに参加メンバーも作業内容も作業場所も違っているが、ただ監督、プロデューサー、脚本家の3者は最初から最後までのすべての段階に関与する。しかし作業に入る前に、まず手ふだをそろえておかねばならない。その"手ふだ"とは、作家(脚本家)と監督、それに加えて銀行が喜んで金を貸してくれるネームバリューを持つスターである。そして、この3者の結束力の強さが、すなわち"手ふだ"の強さになる。3者がそろえばそれが一種のプロポーザルになり、この3者のグループに資金を出せば、契約が締結されたことになる。この段階まできて、初めて映画制作チームが誕生したといえる。

 映画制作は、まず撮影前の段階から始まる。これは脚本づくり、制作日程プランの作成、配役の決定と採用といった作業から構成される。ふつう、この段階ではチームの規模も小さく、メンバーも主として監督と親しい人や監督に信頼されている人だけである。

 次は撮影段階で、ここでは実際にカメラをまわして撮影に入る。この段階で制作チームは、初めて組織らしい組織になり、チームとしての個性を持つようになる。参加メンバーはそれぞれ俳優、カメラマン、照明係、音声係などの作業別グループ、またはサブシステムに分かれる。さらにこれらのメンバーは"上級者"、"下級者"という2つの水準に分けられる。上級、下級という区分は予算書のなかの報酬支払基準による分け方であるが、金の面だけでなく責任範囲が上級と下級とでは大きく異なっている。上級者は映画全体について責任を負い、このなかには"管理者グループ(プロデューサー、監督、脚本家)"と主演級の俳優が含まれる。下級者は映画制作過程のある特定の部分に関してのみ責任を負うもので、技術スタッフ、道具係、運転手などがこれに相当する。