自動車産業の構造そのものにイノベーションを起こした中国
薗田 中国の自動車産業がここまで発展した原動力は、高性能のバッテリーやAI、ソフトウェアといったさまざまな先端技術が実装され、製品自体の魅力が、多くの要素で既存の自動車を上回っている点にあると見ています。
「価格が安いから売れるのだろう」と思われるかもしれませんが、そればかりではありません。日本や欧米のメーカーよりもはるかに安い価格でありながら、性能や機能も優れたクルマをつくり上げているからこそ、グローバル市場でのプレゼンスが高まっているのです。
細井 背景にはもちろん、中国政府の力強い後押しがあります。内燃機関(ICE)車では海外勢に席巻されている市場を奪い取れないと考えた中国政府は、早い段階からNEVで勝負に出ることを決め、積極的な補助金政策などで普及拡大を図ってきました。欧州ではEVの普及政策がやや足踏みし、米国も脱EVの方向へと傾いていますが、中国は依然アクセルを踏み続けています。
ディレクター
細井裕介氏
薗田 中国では、政府がこれまで全額免除していた車両購入税を2026年1月から半額免除にしたことで、EVの国内販売台数はやや伸び悩んでいます。しかし、これは裏を返せば、税制優遇や補助金に支えられつつ販売台数を伸ばす必要がないほど市場ができ上がってきたとも考えられます。実際、上海に行くと、街中や高速道路を走る自動車の多くが「緑牌」(緑ナンバー、NEV用のナンバープレート)をつけていることに驚かされます。EVは中国の新車販売台数の5割弱を占めており、自動運転機能を搭載した自動車は、すでに700万台を超えていると見られます。
――不思議に思うのは、このような優れたクルマを、なぜ日本や欧米よりも安くつくれるのかということです。性能の高さを考えると、人件費の安さだけでは説明がつかないと思うのですが。
細井 ひと言で言えば、産業構造そのものを中国流にイノベーションしているからです。
従来の自動車産業の構造は、エンジンなどの動力源から、パワートレイン、サスペンション、さらには内外装、空調、ナビゲーションに至るまで、ありとあらゆる構成部品をすべて完成車メーカーが企画・開発し、Tier1(一次請け)、Tier2(二次請け)などのサプライヤー群に発注して製造する垂直統合型でした。
しかし、今日の中国におけるモビリティの産業構造は、バッテリーや自動運転のためのソフトウェアなど、基幹部品やソフトウェアごとに強い技術スタックを持った「領域プラットフォーマー」が存在し、それらが持つ技術を各自動車メーカーが横断的に活用するという関係性になっています。
特にバッテリーや自動運転ソフトウェアといった核心部品やソリューションに関しては、圧倒的な支配力を持つ領域プラットフォーマーが存在し、その部品や技術なしでは自動車製造が成り立たない状況になっているほどです。さらに、ハードウェアとソフトウェアの分離も進んでおり、その間をつなぐOSを業界横断で提供する「Tier0.5」と呼ばれる領域プラットフォーマーの存在感も高まっています。
中国の自動車メーカーは、これらの領域プラットフォーマーが提供する部品や技術を必要に応じて選択し、組み合わせるだけでクルマをつくれるようになっているので、早く、安く、性能や機能の高いモビリティを提供できるのです。