ユーザーの「幸せ」を起点とした産業融合が求められている

――中国のモビリティ産業構造のイノベーションは、今後も続くのでしょうか。続くとすると、それに対して日本は、どのような勝ち筋を描いていくべきなのでしょうか。

薗田 中国は常に5年後、10年後を見据えながら、さらなる経済発展や、世界におけるプレゼンスの拡大を追求し続けています。

 今年からスタートした2030年までの「第15次五カ年計画」でも、核融合や6G(第6世代移動通信システム)、バイオ、ドローンなどの低空経済、ヒューマノイドロボットといった領域で世界をリードするという目標を掲げ、その推進力として、イノベーションを重要なテーマに挙げています。

 中国のすごいところは、そうした政府の描く計画や国家戦略に沿って、アニマルスピリットとも表現できそうな民間経済が、前例のない変革へと積極果敢に挑んでいることです。そうした状況を踏まえると、中国のモビリティ産業の構造変革は今後も続くと考えるべきでしょう。

細井 私が所属するスマートモビリティ総合研究所は、将来のモビリティ産業構造が3つのレイヤーに分化されるのではないかと見ています。

 1つ目が、エンドユーザー向けにソフトウェアやサービスなどを提供するフロントエンドレイヤー。2つ目が、部品や車両の製造、車両のメンテナンス、リサイクル含めたサーキュラー、モビリティサービスの高度化に不可欠なAIを動かすための計算リソースやエネルギーの供給といったフィジカルなリソースビジネスを担うバックエンドレイヤー。そして、この2つをつなぐOSのような役割を果たすミドルレイヤーです(図表)。

拡大する
図表1 将来予想されるモビリティ産業構造

 私個人は、これらの3つのレイヤーのうち、特にバックエンドレイヤーが日本企業の勝ち筋と見ています。

 AIの活用においてフロントエンドでのユーザーサービス高度化に目がいきがちですが、AI活用にはGPUなどの計算リソースや電力エネルギーは不可欠な要素です。これらをアナロジーとしてモビリティを考えた際に、製造やサーキュラーなどのフィジカルビジネスは産業支配力を発揮しうる重要なレイヤーであり続けると考えられます。

 中国でもものづくりが急速に進化しているものの、プラットフォーマーが複雑な課題を共通化して解いているともいえ、日本が得意とするすり合わせを含めた複雑なハードウェアをつくり上げる高度な経験・知見は引き続き強い競争力の源泉であるともいえます。今後フィジカル領域にもAIの進出が見込まれる中で、日本はAIを戦略的、政策的にフィジカルビジネスの産業アーキテクチャに落とし込むことが重要だと考えます

薗田 モビリティ領域での勝ち筋を見出すためには、既存の産業構造から見たモノ起点ではなく、人々が求める本質的な価値を見極めるべくユーザーの体験起点で物事を考えることも重要です。

 すでに中国では、クルマが単なる移動手段ではなく、快適さや便利さ、エンタテインメント性などを備えた“道具”や“空間”になっています。これは、「どうすればユーザーが幸せになれるのか」という本質的な発想からスタートし、産業や技術の垣根を取り払って縦横無尽なコラボレーションを重ねてきた結果だと考えられます。「産業融合」のなせる業だといえるでしょう。

 私が所属するPwC Intelligenceでは、『産業融合 インテリジェンスから解く分断・統合・再興』という本を上梓しましたが、世界が政治的に分断する中でも、国境を越えた産業融合は進んでおり、そこから新しいイノベーションがどんどん生まれています。

 日本がモビリティ領域で勝ち筋を見出していくうえでも、ユーザーの「幸せ」を起点とした産業融合が求められているのではないでしょうか。そのヒントをつかむためにも、ぜひ本を一読いただければ幸いです。

『産業融合 インテリジェンスから解く分断・統合・再興』

PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence 著
定価:2970円(本体2700円+税10%)
発行年月:2026年4月21日

「産業構造の変化をどう見るか」が、本書のメインテーマ。特に、産業構造の変化を支えるマクロ的な環境変化、テクノロジーが産業全体に与える影響、そしてそれらによるインパクトが、各産業分野をどのように変貌させるのかという点を扱っている。本書は、書籍全体の背景や狙いを述べた序章、産業構造の未来像を構想するための分析パートである第Ⅰ部から第Ⅲ部、そしてここまでの議論の総括と本書の活用に当たってのインプリケーションをまとめた終章の5部構成によって産業構造の現状と未来を考察している。

■お問い合わせ
PwCコンサルティング合同会社
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-2-1 Otemachi One タワー
URL:https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/consulting.html
PwC Intelligence 統合知を提供するシンクタンク
スマートモビリティ総合研究所