小売業の経営者たちは、"小売の輪"概念や"マーケティング・ミックス"の考え方、製品ライフサイクルや、いわゆる消費者革命のことなど、そしてその他数多くの理論や哲学について知っている。そして、こうした理論や考え方は、いずれも、小売業の成功とは何かを理解するのに役立つことが、これまでに実証されてきているものばかりである。本稿では、小売業者や供給業者にとって、今なお、それらよりも重要な意味を有していると思われる、1つの考え方を紹介している。これは、小売業における業態のライフサイクル、すなわち、どの主要な小売形態も経験する運命にある予測可能な一連の段階についての概念のことである。

 このライフサイクル理論について論じたあと、その実際的意義について、ふれている。そのなかで、このライフサイクルの4つの段階のそれぞれごとに、利益を確保するために必要な何種類かの戦略や政策を語っている。

 小売業者と供給業者の双方にとって、混乱や不確実性といったものは、今後も当分の間、継続するものであるが、この小売のライフサイクルの考え方は、変化に対してうまく適応するための有効な手段になり得ると著者たちは信じている。

 長年にわたって、製造業と小売業の経営者たちは小売組織のなかの進化形態を解明し、将来の小売革新を予測しようとしてきた。小売業の発展を解明するために、これまで意義ある努力が数多く行なわれてきた。そのなかでも最も重要なものは、マルコム P. マクネアーによって、初めて提起された"小売の輪"概念である(1)。マクネアーの考え方では、新しい小売概念は、まず最初は、低コスト、低価格に向かって方向づけられる。時とともにその小売業態は、店内装飾やサービスの提供や豊富な在庫によって商売をするようになってくる。その結果、この小売業態は、より低コスト、低価格で運営される、より新しい小売形態に対して競争力が弱くなってくるというわけである。

 小売業態の変化についての理解が深まったのは、直接的にはマクネアーの仮説によって引き起こされた論争に負うところが大きい。小売の輪概念を拡大し、修正し、あるいは反証しようとする努力が、小売業態の発展に関するおびただしい数の解釈を生みだしたからである(2)。最も広く議論された解釈のうち、いくつかを紹介すると、次のようなものである。

□ 人口統計学的傾向 生活水準が高まるにつれて、小売業者は、おのずと、より高水準の所得階層に引きつけられていく。このことは商品の品質と価格とサービスを高めさせることになる。

□ 不完全競争 直接的な価格競争を避けるために、小売業者は追加的サービスに、ますます力を注ぐようになる。そして、こうしたサービスをするには、より高いマージンをとらねばならなくなる。

□ スクランブル・マーチャンダイジング 小売業者が、その商品の品ぞろえを多様化するときに、あたかも進歩的な商売方法であるかのような錯覚をもたらすような、より高マージンの商品をつけ加えがちである。

□ 経営的進化 創業者から2代目経営者に代わると、コスト意識は、店構えや店舗イメージへの関心にとって代わられ、それによって、コストや価格を上方に押し上げる圧力をつくり出してしまうことになる。

 こうしたアプローチは、それぞれに基本的には、小売業態の進化を理解するのにふさわしい利点を有してはいる。しかしどれも、現代の小売業の発展を説明するには必ずしも十分でないようである。というのは、現代の小売業の発展は、初期の小売革新とは決定的に性格を異にしているからである。例えば、小売の輪概念には2つの重要な限界がある。
1. 小売の輪概念は、小売行動の発展を理解するための手がかりとして費用と粗利益の関係の変化にもっぱら集中的に注目している。そして、新しい小売業態は、低コスト概念をもって新規参入してくるが、だんだんと成熟するにつれ、より高コストの流通機構になっていくものと仮定している。こうしたコスト中心志向は、コンビニエンス・ストアやホーム・インプルーブメント・センターのような、より新しく、より価格志向でない新しい小売形態の発展的行動を説明するには、いささか、限界を感じさせてしまいそうである。