KITA(動機づけのために、従業員に外から"発電機を組み込む"という経営者の意図、以下編集部注参照)は著者によれば完全な失敗であることが証明された。良好な上下関係、潤沢な付加給付といった"衛生要因"の欠如が従業員を不幸にすることはありえても、そうしたものが存在したからといって、従業員がもっと熱心に働く気になるわけではない。

 従業員の担当する仕事に基本的に無意味な変革を加えても、望ましい結果は得られなかった。従業員を動機づける唯一の方法は、責任をとるに値する、挑戦できる仕事を当てがうことである。

 実に多くの論文、書物、講演、研究会で「どうすれば思うように従業員を働かせることができるか」という泣き言めいた問題提起がなされる。

 動機づけを扱う心理学は極端に複雑であり、いままでにある程度の確実性をもって解明された事実は、ごくわずかである。空論が知識を圧倒するという情けない状態であり、次々に新しい万能薬が売り出されて大評判になる。しかもその多くは学術的証明書付きである。この論文が万能薬の市場に水をさすことはないであろう。しかし、この中で説明されている考えは、企業その他の多数の組織で試されてきたものであり、さきほど述べた状態を正すのに役立つものと期待される。

KITAによる"動機づけ"

 経営者を相手にこうした問題について講演をすると、聴衆はかならず、即座に役立つ実践的解答を要求する。そこでまず、人間を動かすための簡単で実践的な方法から話を始めよう。

 だれかに何かをさせるための最も簡単で、確実で、直接的な方法は何か。やってくれよと言えばよいではないか。しかし、いやだと返事されたら、心理学者に頼んで抵抗の理由を探らなければならない。命令すればよいではないか。しかし、意味が分からないと返事されたら、コミュニケーション技術の専門家に頼んで意味を伝える方法を学ばなければならない。割増金を出してはどうか。しかし、ことさら断わるまでもなく、割増金制度の設定と運営が面倒で厄介なことは、よく知られている。手をとって教えてはどうか。しかし訓練計画には費用がかかる。簡単な方法はないものか。

 どんなところで講演しても聴衆の中に"直接行動派"の管理者が混じっていて、「しりをけとばせ」とどなるものである。この種の管理者は間違っていない。だれかに何かをさせる、いちばん確実で、いちばん回りくどくない方法は、しりをけとばすことである。これをKITAと名付けよう。

 KITAにはさまざまの形がある。そのいくつかを紹介しよう。

■ 消極的・肉体的KITA これは言葉の文字通りの実行であって過去によく使われた。しかし、3つの欠点がある。(1)あかぬけしない。(2)多くの組織が大事にしている温情主義の看板を傷つける。(3)肉体的制裁は自律神経を直接刺激し、しばしば消極的反応を招く(従業員が仕返しにしりをけとばす)。これらの点から、消極的・肉体的KITAは、タブーとされるようになる。

 消極的・肉体的KITAを使えなくなったとき、心理学者が応援に駆けつけた。精神的な弱点を数限りなく探り当てて、それらを利用する適当な方法を考え出してくれた。「上役に足をすくわれた」、「何か下心がありそうだ」、「いつも見張られている」、こうした発言は、エゴの傷口をまともにこすられたことを証拠立てるものであり、次のような手段が用いられたことを物語っている。

■ 消極的・精神的KITA この方法には消極的・肉体的KITAに比べていくつかの利点がある。第1に、残酷さが目につかない。出血は内部で起き、しかもずっと時間をおいてから起きる。第2に、脳中の制止力をもった高次元の皮質に影響するから、肉体的反発を招くおそれが少ない。第3に、個人が感じうる精神的苦痛の数は無限に近いから、KITAが作用しうる方向と場所が何倍にもふえる。第4に、けとばす人物は高見の見物をきめ込み、きたない仕事を制度にやらせることができる。第5に、実施者がある程度の自己満足(優越感)を味わえ、しかも血をみないですむ。最後に、もし従業員が文句をいっても、実際に制裁を加えた具体的証拠がないために、偏執者として片づけてしまえる。