国際競争というものに先進工業国の人びとのほとんどがとりつかれてしまったのは、日本車の売れゆきがよくなりはじめて以来のことである。かつて強固であった国際企業をいいあらわすのに、"無敵"に代わって"もろい"という言葉を選ぶ人が多くなった。しかし、こうした不安の陰に見落とされてしまっていることがある。外国に拠点をもつ企業と競争して、着実に成果をおさめてきた企業もたくさんある、ということである。

 こうした企業は、世界戦略を武器に今日の世界で成功をおさめている。それには、世界を国別の市場の集まりではなく、1つの市場と考えなければならないし、競争のうえで引き合うとわかれば、投資利益率の低いプロジェクトにも手を出すといった、従来にはない決定も、ときには必要となる。世界全体に照準を合わせた企業は、まず企業全体の長期戦略を策定し、それに合わせて各地の関連会社の戦略をまとめあげている。

 本稿では、著者たちが新しい競争ゲームを勝ち抜くうえで必要と考えている力を備えた3つの企業(アメリカ、ヨーロッパ、日本)の事例をもとに、世界企業の威力が示されている。このケース・スタディーは、経営者が世界戦略は果たして自社に適しているのかを判断するのに役立つはずである。

 アメリカのメーカーは敗退してしまった、と断定するのは待ってほしい。敗退を潔しとしないばかりか、全世界で業界を制圧している企業もある。フォードがトヨタに負けまいと必死になっている一方で、キャタピラーは、もう1つの日本の強豪、小松製作所との競争に勝利をおさめている。ゼニスは消費者向け電子機器で痛手をこうむっているが、ヒューレット・パッカード、テクトロニクスの両社は、産業用計測機器の世界市場で50%を支配し、利益をあげている。アメリカのフォークリフト・メーカーは、日本に押しまくられ退却しているかもしれないが、同じアメリカの化学会社2社、デュポンとダウは競争相手とは比較にならない業績をあげている。

 こうしたアメリカのメーカーが外国の競争相手と争って、利益を維持しているばかりか、さらに増加させているのは、何によるのだろうか。統合された世界戦略をたてて企業の潜在力を引き出し、長期的展望をもって積極的に投資を行ない、キメ細かに工場を管理する、これがその秘密である。

 こうしたことが必要になる最大の理由は、多くの産業では、今日国際競争が以前とはすっかり変わってしまったからである。成功をおさめるには、国際企業(インターナショナル・カンパニー)は国別の国内市場ごとに個々の関連会社を競争させる多国籍国内競争企業(マルチドメスティック・コンペティター)から脱皮して、全世界にまたがる製品と市場のシステムを動員して競争に立ち向かう、地球規模(グローバル)の組織体へと変質する必要があるようである(この違いについて、もっと詳細な説明は以下のカコミを参照のこと)。

地球規模の業界とはどういうものか

 多国籍企業間の国際競争は多くの業界でその性質に変化が生じた。多国籍企業とは一般に、主要な活動と市場への関心を、自国外においている企業をさしている。このような企業は、広くいろいろな領域にわたっていて、さまざまの産業で活動している種々の組織体を含んでいる。しかし、戦略的観点からすると、多国籍企業が競争している業界には2つの種類がある。多国籍国内競争型【マルチドメスティック】と地球規模競争型【グローバル】である。両者は経済原理や成功への必要条件で同じではない。

 多国籍国内競争型の業界では、企業は、競争は市場ごとに別々に挑むものだと考えていて、それぞれの外国市場で別々の戦略を追求している。それぞれの海外関連会社は、まったく自主的経営をまかされ、戦略上独立したものとなっている。多国籍企業の本部は財務管理とマーケティング政策(ブランド名も含む)を全世界的に調整しているが、またある程度の研究開発や部品の生産を集中することもある。しかし、戦略と企業運営は分権化されている。それぞれの関連会社は利益責任単位であって、市場機会に見あった利益と成長をもたらし、貢献するよう期待されている。

 多国籍国内競争業界では、企業経営者は製品に対する要求、成長率、競争環境、政治的リスクがさまざまに異なる全世界の市場地位すべてで効果的な運営をしようとする。現地経営者には研究開発、生産、マーケティング、流通で成功をおさめるのに必要なことは何でも実施させているが、その結果の責任も彼ら自身に負わせている。要するに、他の多国籍企業や現地の競争相手と個別の市場ごとに競争しているのである。アメリカの成功した企業の多くは、多国籍国内競争業界に属している。このなかには、家庭用品のプロクター&ギャンブル、制御機器のハネウェル、アルミニウムのアルコア、ブランド食品のゼネラル・フーヅも含まれる。

 地球規模業界では、これとは対照的に多国籍企業はその製品と市場地位の全世界にわたるシステムを動員して他社と競争する。さまざまな国の関連会社は、運営と戦略に関して高度に相互依存的である。ある国の関連会社は全社の製品系列のごく一部の製造に特化し、全社システム内の他の会社と製品を交換することもある。

 国別の利益目標はさまざまで、全世界に広がるシステム全体の、コスト面での地位や成果に個々の関連会社がどれだけ影響をもっているか、あるいはその関連会社が主要な地球規模の競争相手と比較してどういう立場にあるか、によって決められる。ある国での価格が、他の国でも効果をあげることを意図して決められることもある。

 地球規模の事業では、経営者は世界市場で少数の多国籍企業を相手に世界的規模の競争を行なう。戦略は中央に集中されているが、企業運営のいろいろな側面は、経済性や効果によって分散されていたり集中されていたりする。個々の現地市場のニーズに応えようとはしながらも、世界的システム全体の効率を下げてまではしない。

 アメリカの多国籍企業には地球規模の業界に属するものが多い。その例を主要な競争相手とともにあげると、大型建設機械のキャタピラーと小松製作所、時計のタイメックスとセイコー、シチズン、重電機のゼネラル・エレクトリックとシーメンス、三菱などである。

 多国籍国内競争型と地球規模競争型という名称を個々の業界や業界内の分野に当てはめることはできても、産業全体には必ずしも当てはまらない。例えば電機産業であるが、蒸気タービン発電機や大型モーターのような重電機は、典型的な地球規模競争型であるが、ビル用低圧制御装置や付属品は、本来多国籍国内競争型である。

 世界企業(グローバル・カンパニー)であれば国籍がどこであっても努力していることは同じで、国境を越えた生産によって規模の経済性を得ることから、他国の競争相手のキャッシュ・フローの源をおさえることに至るまで、戦略手段の管理である。主要製品やカナメとなる市場で値下げをするなど、今までとは違った行動をとって、競争相手がこれに対抗しようにもカネがかかり、手におえぬようにしてしまう。競争相手には、まったく効果がなく、自社だけうまくゆくようにするのが、その一番のねらいである。

 企業はすべて世界戦略をたてるわけにはいかないし、またそうすべきものでもない。地球規模で競争すれば、利益も大きいが、リスクもまた大きい。政策や運営を大きく変更する必要もある。地球規模で競争するには今までとは違ったやり方で、多数の国にまたがる事業を経営せねばならず、時には次のようなことも認めなければならなくなる。

投資利益率がゼロかマイナスでも、大規模投資プロジェクトを進める。

海外の関連会社ごとに業績目標に大きく差をつける。