10年前には、意思決定分析は依然として経験的な経営管理手法であった。だが当時ですら、その支持者たちは、微積分が技術者にとって不可欠な存在であるのと同様に、いつの日か意思決定分析が経営管理者にとって不可欠な存在になるだろう、と主張した。

 本稿の著者たちによれば、個人的な判断を組み入れる意思決定分析は、一部の人たちが期待した内容には依然としてなっていないが、それにもかかわらず、それは多くの大企業や政府の関係省庁で受け入れられてきている。このように意思決定分析が受け入れられてきている理由の1つは、経営管理者のニーズに対する意思決定分析の柔軟性と感受性が以前の意思決定分析より非常に増大している、という点にある。

 いいかえれば、今日の意思決定分析の手法は、人的資源、社内の政治力学、時間的な逼迫および経営管理者が取り扱わなければならないその他複雑ではあるが、決定的に重要なすべての要因を一層巧みに考慮に入れることができるのである。

 本稿で著者たちは、3種類の主要な意思決定分析を紹介すると同時に、現実の事業問題を解決するために、実際の経営管理者が意思決定ツリー分析、確率的予測方式、多属性分析をどのように活用しているかを示している。

 '70年代初めのある時期、賃金・価格委員会(Wage and Price Commission)の委員長をつとめ、また意思決定分析の応用に関する初期の書物のうち、その1冊の著者でもあったC. ジャクソン・グレイソンは、分析担当者たちが自分のような多忙な人間にモデルを活用させたいと思うならば、「現実の従業員、時間、能力、データの入手可能性、対応時間をモデルに組み込み、不完全であるとしても、実行可能な解決案を創造する」ように忠告した(1)。

 当時、意思決定分析は依然として経験的な経営管理手法で、統計的な意思決定理論の比較的単純な応用であった(2)。意思決定者が直面する選択は、確率と効用の数値を数式で示す関数として示され、この関数によって、人間につきものの不確実な要因や価値判断を測定することができた(最良の選択案は最大期待効用をもたらすものであった)。

 意思決定分析は、選択案の中から選択の対象となる検討事項を論理的に定量化する方法として、かなり確立されたものになったとはいえ、それはビジネス・スクールから出て、実務界で実践的に応用され始めたばかりであった。また、意思決定分析に関して社内に専門家を持っていたのはごく少数の会社であったし、また、それを専門とするコンサルタントが利用されることも、めったになかった。

 現在では、分析担当者たちは過去10年間、現実世界からよせられた、ときには屈辱的なフィードバックのおかげで、意思決定理論の基本公式をどのような方法で経営管理者に役立たせることができるかという点に関して、従来以上に柔軟で謙虚な態度をとるようになった。そして、その手法は、とくに多属性効用分析とその活用者との相互作用の改善を通じて、的確な意思決定にかかわる、より多くの検討事項を把握するように強化されてきた。意思決定分析は、システムのモデル化やオペレーションズ・リサーチのような従来の意思決定手法の補足的な手法として登場してきたが、新しい手法は統計的な意思決定理論に加えて、心理学、経済学、社会科学を活用する。

 そのアプローチの本質と特質は、計量モデルが個人的な判断を組み込んでいるということである。このアプローチをその他の広範に活用されている意思決定の方法(例えば"客観的な"インプットに依存するだけの意思決定の方法)から区別するために、われわれはそれを個人的な意思決定分析と称する。

 分析担当者たちが学んできたことは、意思決定に直ちに入手可能なデータと専門的知識を活用すること、そして、その結論をほぼリアルタイムで経営管理者にフィードバックすることであった。1970年には、3ヵ月かけても分析を終わらせることはほとんどできなかったが、現在では、午後いっぱいかければ、ある問題に関する有意義な分析を行なうことができるし、1日か2日後には、その後の分析を提示することができる。経営管理者は、現在では、自分たちの会議のスケジュールや思考過程を大きく攪乱されることなく、こうした分析に対応できるし、その他の分析にインプットを提供することができる。