すでに確立した市場に新たな競争相手が参入することは、新規参入企業ばかりか既存企業にも戦略的な問題となる。既存企業としては、自社の豊かな市場はマーケティング・マネジャーが参入障壁と呼んでいるものによって守られているから安心だと考えるかもしれない。それは、規模の経済性、製品差別化、絶対費用の優位性、流通経路の排他性、すぐれた技術や資源、報復の脅威、あるいはそれの組合わせのいずれであろうとかまわない。

 他方、新規参入をしようとする企業の側では、回避ないし克服しなければならない障壁について懸念し、また自社に有利な戦略が展開できるだろうか、と心配になることもあるだろう。だがこうした障壁は、どんなに強力な防御用武器であるにせよ、難攻不落というわけではない。

 著者はこの論稿の中で、各種の参入障壁を規定し評価するための枠組みを提示したうえで、それを新規参入のための手段に転用するという、新しい発想について論じている。

 今日のマネジャーは、次第に企業の長期計画に関心をもつようになって、企業を成長させるために新たな参入市場を模索しては、然るべき新規参入戦略を展開している。企業の成長要因としては他にも2つある(現在の市場と他企業の取得)が、これに対して今日多くの会社は、10年前ほどの魅力をほとんど感じていない。成長市場に身を置いている企業も多少はあるが、大半は停滞した市場で悪戦苦闘している。またどの会社も、新たに取得した企業(十分成長したものもあり、手に負えないほど"小児"的なものもある)の管理にてこずってきたため、取得はかつてのようなはなばなしさを、ほとんど失ってしまった。

 だが直接的な参入は、人気上昇の割にはこれといってつかみどころがない。新規参入企業は、かの市場防衛の最前線である参入障壁を突破しなければならないのだが、これに成功する企業と失敗する企業ができるのは、どうしてだろうか。参入は競争力をためす、このうえない試練のひとつだ。ここではもはや、自分の土俵ですもうを取るようなわけにはいかない。新しい舞台で、自分の力量を発揮しなければならないのである。

 新規参入は、既存の企業にとっても一種の試練だ。新規参入企業が地歩を固めようとする努力は、どうかすると市場を全員にとってうまみのないものにしてしまう。しかも既存企業にとって都合の悪いことに、新規参入企業は、自社よりもすぐれた技術、豊富な資源と新たな競争手段を備えていることが多い。

 参入障壁の概念は、産業組織論者によって展開され、数十年前に産業界に紹介されたものである。既存企業の中には、自社の有利な市場が防備できるよう難攻不落の城壁が築いてあるから大丈夫だと考えるものがあるかもしれない。また、参入する企業のほうでは、乗り越えるべき障壁の高さに頭を悩ますかもしれないのである。

 しかしながら、マネジャーには今のところ、参入障壁の効果を確認するために用いる体系的な手法も、それを克服ないしは維持する手段を工夫するための方法論もないのだ。

 本稿は、産業組織論に企業戦略を統合したマイケル E. ポーターの先例に基づいて、そのための枠組みを提示しようとするものである。"新規参入企業の脅威"とは、産業界における競争を支配する5つの力とポーターが規定したうちの1つだったのだ(1)。

 筆者の2年に及ぶ参入障壁研究には、新しいデータの収集分析が含まれているが、ここではそれに基づいて、各種の参入障壁とその作用を評価するための枠組みを提示してみたい。そしてまた、"参入への道"という概念についても述べるが、それによって障壁を作るのと同じ要因が、参入企業の武器としても使えることを明示できるだろう。