伝統的な財務理論では、これまで長い間、どんなに悪い副作用があろうとも、財務レバレッジを積極的に利用すれば、高い企業価値を得ることができる、とするのが通説とされてきた。本稿の著者は、財務に関する20年間の研究成果を要約することによって、この通説を修正している。法人税率および所得税率が状況に応じて変動し、負債の魅力に著しい影響を及ぼすことはいうまでもない。そしてまた、財務政策を戦略目標に適合させるに際して、高いレバレッジが財務政策の弾力性に制約を課すという目に見えないコストがあることも、負債の魅力に影響を及ぼしている。

 著者はまた、本稿で最適な資本構造を構築するときに役立つように、財務担当役員が負債方針を樹立する前に確かめておかねばならない一連の質問を用意している。

 ここ10年間、高インフレが続いたため、多くの財務担当役員は、切実な資金調達の必要性を満たすべきか、貸借対照表に表われる財務状況の悪化を防ぐべきかで悩みぬいてきた。企業の全般的な財務健全性は、まさに目をおおうほど悪化している。これは表1を見ると明らかである。1970年代の高インフレ期には、インフレによって水増しした運転資本や新規の工場・設備への追加資金をまかなうため、財務担当役員が新株を発行する際には、負債額を自己資本のほぼ3.5倍に定めて財務レバレッジを活用してきた。このようにして、相当額の負債を新たに貸借対照表に計上することになったため、財務担当役員は今や税引前利益に比べて多額の利子を支払わなければならないといった事態に直面している。さらに悪いことには、負債の大部分が短期性のものからなるため、利子率の変動の影響を受けやすいとか、資金調達リスクが増加する、といった問題にも直面している。

 このような財務健全性の悪化は、これまでも無視されてきたわけではない。1972年にA級に社債格付けされていた会社で負債のある430社のうち、1981年には112社が降格し、当時よりも高い格付けを得た企業はわずか39社でしかなかった。しかも、財務上の圧力がすぐにも軽減されるであろうという徴候はほとんどない。年次で10%にも及ぶインフレが続いたため、今借りている低コストの負債が満期になると、現在の高い金利で再調達しなければならないので、外部から資金調達し利子を支払う負担が高まってきている。

 それゆえ財務担当役員は、競争上の優位性を保つための製品市場戦略を打つのに必要な資金を確保したいと願う業務担当責任者としばしば意見が衝突する。とりわけ、自己資本による資金調達が歓迎されず、業務担当経営者――主として製造、販売およびマーケティングに携わる――が支配力を握っている企業では、負債の比率を増大させてレバレッジを活用させるべきだとする傾向が強い。そんなとき財務担当役員は何をすべきか。また、そのようなレバレッジはなんとしても勝ちとるだけの価値があるのだろうか。

 この質問に答えるため、この論文では自己資本による資金調達に替えて、負債を利用している企業についての20年間の研究成果を要約した。主要な発見事項は、負債による資金調達は、多くの財務担当役員が考えているよりも実際には割に合わない、ということである。その結果、企業の財務政策に関するいくつかの仮定を、もう一度綿密に検討してみる必要がでてきた。財務担当役員が賢明な負債政策を行ないうるようなプロセスとか、資本市場の短期の変動に対応し、企業価値(企業の負債および自己資本の経済価値合計)を高め、企業の戦略地位を認識し、それらをトップに理解させる――このことは先に述べたことに劣らず重要であるが――ための政策を概説する。

負債による資金調達の魅力

 この問題を考察するには、負債が自己資本利益率にどんな好ましい影響を及ぼすのかを論証することから始めるのが普通である。

 表2を参照してほしい。

 このようにして自己資本利益率を上昇させるにはコストがかかる。つまり、自己資本利益率を上昇させるために、固定的な利子支払額が増大し、その結果、企業の損益分岐点を上方に押し上げ、目標売上高を高水準に保たねばならなくしている。もっと重要なことは、収益の安全性がなくなり、その当然の結果として株価が大きく変動することになる。目標売上領域の下限では、利益の絶対額は、負債によって資金を調達している企業は、すべて自己資本で資金調達をしている企業よりもはるかに低くなる。しかし逆に目標売上領域の上限では、利益の増加比率ははるかに大となる。その逆もいえる。すなわち、売上高が目標売上領域の下限に向けて減少するにつれて、負債で調達している企業のほうが、利益の減少率がはるかに大となる。したがって、負債の利用を高めれば高めるほど、売上水準が高くなればそれだけ利益が増大するし、逆に売上水準が低くなればそれだけ利益が減少する。ロバート・ハマダ氏による調査によれば、普通株の非分散化リスク(株価の変動性)の要因の21%から24%は、企業が負債と優先株を利用することによって負う財務リスクによって説明することができるとしている(1)。