施行後200年
甦るATS法

 顧問弁護士は、いかに可能性が低かろうと、訴訟の脅威に対処するために雇われている。以下のメモは心配しすぎのように思われるかもしれない。しかし、どのグローバル企業も人権侵害訴訟を差し迫った現実的な問題として認識すべきである。

 政治問題に積極的なアメリカの裁判所は、発展途上国における多国籍企業の事業行為に関する訴訟を以前にもまして受理するようになり、国際人権基準を企業活動に適用する姿勢を強めている。

 現在における法的根拠は、1789年に施行された「外国人不法行為法」(ATS:Alien Tort Statute)である。この法律に基づいて、アメリカの連邦裁判所には、国際法に違反した行為に対する外国人による提訴すべてに第1審管轄権が付与されている。

 ATSは施行後200年もの間、ほとんど忘れられた存在だった。同法に基づく訴訟もきわめて少なかったが、1980年、ニューヨーク州第2巡回区控訴裁判所による画期的な判断をきっかけに状況は一変した。誘拐された後、拷問によって死亡したパラグアイ人の若者の遺族が、拷問の加害者とされる人物(アメリカに移住したパラグアイ人警官)をアメリカの裁判所に告訴することが認められたのである。

 判決が下り、提訴に必要な基本要件は満たされているとされた。すなわち、第1に原告が外国人であること、第2に不法行為があったと申し立てていること、第3に国際法違反に基づく被害であること、以上の3要件である。

 この判決後、元役人への人権侵害訴訟や、そのような部下の侵害行為を承認した上役を相手取った訴訟が相次いだ。拷問、不当逮捕や拘留、レイプ、処刑やその他の人権侵害を被った外国人に向けて、アメリカの裁判所の扉は大きく開かれたのである。

 さらに、カリフォルニア州第9巡回区控訴裁判所が、2002年9月、巨大石油会社ユノカルに対するATS訴訟の棄却に応じなかったことを機に、企業絡みのATS訴訟は大きく様変わりした。