会長とCEOの機能分離

 理想的なコーポレート・ガバナンスを実現するには、取締役会長とCEOの分離が必要であるという見方が、投資家や研究者、政府関係者の間で徐々に受け入れられている。

 全米産業審議会による2003年1月の委員会報告書でも、このような分離体制が推奨されている。またイギリスでも、会長とCEOの分離は一般化しつつある。しかし、これが本当に名案なのだろうか。

 このような機能分離によって、投資家のリスク調整後の利益が本当に向上するのかどうかは疑わしい。それどころか逆に、この改善策を広く導入すると、うまく機能していたはずの企業では、余分なコストが生じ、経営面で遅滞が発生する可能性が高い。さらに、リスク嫌いの傾向が助長され、株主の経済的利益を傷つけかねない。

 アメリカの証券市場のように、大規模で流動性の高い市場に投資する投資家は、ごくわずかのコストでリスク分散できるという恩恵に浴している。この流動性の高い市場と低コストの分散投資という組み合わせは、たしかに効率的である。

 ただしこれは同時に、重大な問題をも引き起こす。つまり、さまざまな企業の株式を保有している投資家は、手間暇かけて経営陣を監視しようとはしないという問題である。あっさり売却するほうが、はるかに手間がかからないからだ。

エージェンシー・コストの誤謬

 経営陣に目を光らす株主がいなければ、経営陣は企業の利益より自分の利益を優先しかねない。経済学者はこのリスクを「エージェンシー・コスト」(経営者は株主の代理人、すなわちエージェンシーであるから)と呼んでいる。他のさまざまなコスト同様、このコストも削減するのが一般的には望ましい。

 一部の投資家や研究者、評論家にとって、コーポレート・ガバナンスにまつわる問題とは、まさにこのエージェンシー・コストを削減する体制や手法にほかならない。そして、会長とCEOの役割を分離することは、現状ではエージェンシー・コストの効果的な削減方法のように思える。