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交渉をめぐる2つの問題
大企業では、複雑な商談が失敗に終わることがよくある。その理由は、交渉担当者の経験不足や未熟さのせいではなく、彼らが2つの構造的な問題によって制約を受けているからだ。「エージェンシー(代理人)問題」と「アラインメント(すり合わせ)問題」である。そして、この2つの問題に対する組織の姿勢もまた、失敗の原因になっている。
この2つの問題は、稀少な経営資源を無駄遣いし、成功が見込めたはずのディールから価値を流出させ、最も優れたディールメーカーでさえ無能に見せてしまう。
エージェンシー問題が起きるのは、本来なら組織の利益を代表して行動するはずの交渉担当者のインセンティブとリスク耐性が、必ずしも組織のそれと完全に一致していないからだ。
たとえば、営業部門の交渉担当者は、商談が物別れに終わるくらいなら、どれほど不利なディールであっても受け入れてしまうかもしれない。商談が成立すれば、自分の手数料やボーナスが増えるからだ。何十社ものサプライヤーを相手にする調達責任者が時間に追われていれば、粘り強く交渉して有利な条件を求めるのではなく、すぐに妥協点を決めてしまうかもしれない。
こうした残念な結果を回避するため、多くの企業は交渉担当者に託す権限を厳しく制限している。
その結果、担当者は交渉で譲歩が必要になるたびに、上司の許可を取りに何度も戻らねばならない。それでは時間ばかりかかり、相手からの信頼は損なわれ、交渉の場で創造的な問題解決をする力も奪われてしまう。現場の交渉担当者が「自分はディールメーカーではなく、伝言係だ」と感じてしまうことも少なくない。
さらに交渉が複雑化すると「アラインメント問題」が発生して、交渉をいっそう難しくする。
複数の製品、あるいは複数の地域や部門が関わる交渉の場合、利害関係者がそれぞれ自分の優先事項を確保しようとする。それは価格かもしれないし、リスクや納期、あるいは別の分野の話かもしれない。たとえば、営業部門のトップは価格と売上高を最優先したいが、エンジニアリング部門の責任者は納期を最重視しており、法務部門のメンバーはリスクの最小化を第一にしているといった具合である。
利害関係者の全員が満足するように取引をまとめるには、まず社内各所との交渉を行う必要がある。こうした「交渉前コンセンサス」を得るには、全員が受け入れられる最も控えめな最低ラインで合意を取りつけるのが通常だ。
しかし、このような最低ラインが決められてしまうと、交渉担当者には相手と交換条件を探ったり、創意工夫をこらした解決策を提案したりする余地がほとんど残されない。仮に、交渉前コンセンサスで決まっていた条件を相手側が受け入れない場合、交渉担当者はあらためて社内の関係各所と話し合い、誰がどの部分で譲歩するのか相談しなければならない。そうなれば、商談は長引き、相手からも社内からも信頼を失うことになる。



