創業者交代の難しさ

 創業者の退任は、企業のライフサイクルの中でも最も感情的になる瞬間であり、戦略的にも重大な局面の一つに数えられる。うまく処理できれば、次の段階への扉が開かれ、成長と成熟の機会となる。しかし対応を誤れば、組織は不安定となって企業価値が損なわれ、会社の勢いが衰えかねない。そのリスクは大きい。創業者CEOの交代は、創業者ではないCEOの交代と比べて、失敗や業績悪化のリスクが2倍から3倍も高いことが知られている。

 プライベートエクイティ(PE)の支援を受けている企業であれ、公開企業あるいは非公開企業であれ、創業者主導の企業は成熟するにつれて同じ問題に直面することが多い。会社を立ち上げた当の本人が成長を阻む原因になってしまった場合、あるいは、創業者は退任を望んでいるが、組織がまだ創業者なしでは運営できない状態にある場合、何が起きるのだろうか。

 創業者は多大な影響力を持っている。それを証明する例はいくつも知られている。

 アップルを追い出されてから10年以上が経過した1997年に同社に復帰したスティーブ・ジョブズは、たとえ何年も会社を離れた後でも、ビジョンを持つ創業者は会社を変革できることを証明した。オープンAIでは、サム・アルトマンの短期間の解任と劇的な復帰が、創業者の影響力がいかに核心的で複雑なものになりうるかを明らかにした。バンブルでは、ホイットニー・ウルフ・ハードが執行役会長に退いたのちに再びCEOに復帰したことで、創業者が会長の役職に留まることで影響力を維持できることを、そしてそれが時に完全な移行の境界線を曖昧にすることを浮き彫りにした。

 本稿では、創業者の移行(トランジション)を乗り越えるための実践的なガイドを提供する。創業者、後継CEO、創業者主導の企業、そしてそれらの変化を支える投資家や取締役会メンバーに役立つことを意図している。

 執筆陣の豊富なアドバイス経験ならびに独自調査、数十件のインデプスインタビュー、そしてクライアントのケーススタディに基づき、退任の話をいつ、どのように切り出すべきか、創業者の次の役割をどう定義するか、どんな条件を有する後継者が望ましいか、移行をスムーズにするために創業者に何ができるか、そしてすべてのステークホルダーが問うべき重要な問いとは何かを探っていく。

いまは移行の時期なのか

 何らかの取引が成立した後や新たな成長段階のさなかであっても、創業者が会社を率いる立場を長期にわたって維持するのがふさわしいケースも存在する。そのため、移行を考える前に、創業者がCEOに留まるべきかどうかを検討すべきだ。会社にとっては、何も変えないことが最善のケースもある。その場合は、無理をしてすぐに決断を下すのではなく、創業者をサポートできる新しいチームメンバーを採用して、のちの承継のための選択肢に投資するのが最適なアプローチかもしれない。

 次の例を見てみよう。ある創業者は、自分の会社をPEファームに売却した後、次の段階に備えて、後継者候補として社長兼COOを採用し、みずからは取締役会会長という新しい役職に移行することにした。まさに教科書通りの移行だったが、その創業者はすぐに後悔した。その理由をこう説明する。「火曜日の朝に目が覚めた時、仲間たちは皆仕事をしていることに気づいたのです。会社に戻りたいと思いました」

 創業者は当時40歳にも満たず、CEOを退いたのは、疲れたからでも、ビジョンが尽きたからでもなかった。事業を売却した創業者はそうするものだと思い込んでいただけだ。考えを変えてCEOに留まることを選んだ時、経営陣は安堵し、事業も繁栄を続けた。次のPEラウンドも成功した。

 なぜうまくいったのだろうか。この例の創業者は自己認識力と適応力が高く、結束力のあるチームを築くことに力を注いでいた。創業者は時間とともに戦術的な姿勢から戦略的な姿勢へと進化し、自分にしかできないこと、つまり文化とビジョンの構築に専念してきた。このリーダーシップが再び戻ってきたため、会社に明確さと結束力が生まれた。創業者の存在こそが中核となって、会社の成功につながったのである。