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1987年10月19日の株式市場の大暴落は、アナリスト、投資家そして株式市場に注目する人達の多くが信じていたものとは全く違うものであった。それはパニックというよりは、冷静さの回復、秩序の復活であり、信頼の崩壊ではなく株式市場の持つ価格付け機構の信用の回復であった。世界中に波及した暴落は、実は株式市場を長期低迷相場に陥ることを防いだのであった。不公正な良き時代を終わらせたがゆえに、暴落は悪しき時代の到来を防いだのである。
また、ポートフォリオ・インシュアランスとかプログラム・トレーディングは暴落を悪化させたのではない。暴落が長期間にわたらないようにしただけのことである。統計の言葉を使うならば、振幅を大きくし、変動の周期を縮めた、ということになる。
突然で急速な下落であった暴落は、際立って優れた分析手法を活用することの合理性を強調した。株式市場に積極的な参加者は、だれもこの突然で急激かつ大幅な下落を予見しえなかった。全員が油断していた。そして全員が失敗した。
狂気の論理
この暴落の大きさは、投資家の行動、マーケットのプライシング・メカニズム、価値評価、リスク、合理的市場、変動性などについての様々な資本市場理論を検証するよい機会を提供した。これらの理論は過去幾多の検証をパスしてきたものであるが、多かれ少なかれ市場が正常範囲内に限って変動する場合にのみ試されてきたことであった。極端でカタストロフィックな変化という条件の下で検証されたものは全くなかった。
我々の研究で、ここ数年支持されている理論だけでなく、過去において否認された理論も含め、投資家の合理性についての理論が10月の大暴落の最中でも矛盾なく適用できることがわかった。暴落で起こったことの真実を理解するために、暴落に導いた、あるいは影響を与えた要因について、他の研究が示した以上に注意深く、幅広く考察してみよう。
暴落前の騰貴
かつてファンダメンタル分析の創始者であるベンジャミン・グラハムが示した研究によると、強気相場の時に投資家は価格に対する平衡感覚を失い、企業のファンダメンタルズ(基礎的要件)に何ら関係のないと思われることに余分のお金を支払う。「投機家が価格をつり上げ、価格水準がさらに投機熱をかき立てる。これは強気相場の特性である(1)」とグラハムと共著者は名著である"Security Analysis: Principles and Technique"の中で述べている。
この見方は、10月19日の暴落直前のマーケットの挙動に当てはまる。暴落の初期段階では、今までのばかげたプライシング・メカニズムがまさに崩壊しようとしているとマーケットは見ていた。だが、いったん強気相場が終わると投資家は暴落前のオーバープライシングの度合いに応じて不合理な値上がりを急激に修正した。簡潔に言うと暴落前に最も値上がりした銘柄が、暴落で最も下落したのだ。
「暴落前後の価格変動」と題した表1は、この結論を立証している。第1五分位(訳注 値上がり順で全体を5等分した上位5分の1のグループ。以下第2五分位、第3五分位……という)は、暴落前12カ月で最大(57.3%以上)の値上がりをした銘柄群である。第5五分位は暴落前に最も悪い(-3.6%以下)パフォーマンスを示した銘柄である。このパターンが暴落を境にして逆転している。第1五分位の銘柄は平均32.8%も下落した。一方、第5五分位は"たった"24%の下落であった。我々がサンプルとした2000銘柄の平均は28%の下落であった。
この五分位による結果は、単回帰分析からも強く立証された。T値は変数が有意であるかどうかを示す尺度で、普通T値が2以上(もしくは-2以下)の時、統計上有意であると認められる。表2ではT値が-14.78であり有意性は強い。暴落前1カ月間、3カ月間のパフォーマンスの分析を行ったところ、T値はそれぞれ-2.0、-5.5と、やや不鮮明ながらも同様なパターンが認められた。




