ナレッジレイヤーで各部門がつながり、知の循環が促進される

中嶋 これまで触れてきたように、定置工事事務所の所長が持つ暗黙知の形式知化は相当難易度が高い。「あの所長はすごい」と言った時、ともすれば「人間力」のような漠とした能力に還元されてしまうところもあります。業務の内容からすればある意味仕方のない側面もありますが、AIへの入力に適した資料もあまり存在していない中で、難易度の高いチャレンジです。ただし、今後、組織知の最大化とともに、AI活用を価値あるものとするためには、早い時期に試行錯誤を経験するのは悪いことではありません。PwCコンサルティングに期待しているのは、木村さんも先ほど触れていた、内部ではなく外からの視点でナレッジを整理・構造化してもらうこと、今後より多くの部門でナレッジ継承を進めていくための「型化」です。

木村 実は、インタビューしたMicrosoft Teamsの動画とトランスクリプトをAIに与えると、業務フローが自動で生成されるような仕組みや、人がインタビューする隣でAIが不足している観点をガイドしてくれる仕組みも、Techチームが開発してくれています。人がインタビューできる量には限界がありますし、偏りも生じてしまいます。今後は、対話の中で必要な文脈理解と業務整理を過不足なく行ってくれる業界特化のインタビューAIエージェントも当たり前になっていくでしょう。

 今後はナレッジ継承AIの精度向上に取り組んでいきますが、このAIエージェントを通じて、どのようなことを実現していきたいですか。今後の展望を教えてください。

島田 定置工事事務所の所長や所員は、しばしば突発的な事態への対処を求められます。何が起きるか予測できないので、準備のしようもない。そうした時に所長は信頼できる誰かに相談したいと思うでしょう。仙台の所長のような人が身近にいれば好都合ですが、そんな時ばかりではありません。ナレッジ継承AIに相談できれば、困り事を解決する際の力になるはずです。たとえば、ベテラン所長Aさん、Bさん、Cさんという独自のキャラクターを持つ3つのエージェントが、それぞれの観点からアドバイスするというアイデアはどうでしょうか。

木村 困った時に何人かの先輩に相談するイメージですね。プロトタイプのVersion2では、AIエージェントにパーソナリティを入れました。例えば、価値観・判断軸、思考・意思決定スタイル、他者との関わり方、話し方の特徴といった項目をモデル化して入れています。いよいよ本当に先輩たちに相談している感覚に近づきます。

島田 私は以前、リニューアル案件の見積もり業務に携わっていた時期があります。その時に意識したのは、現場の環境や工事内容などをできるだけ具体的にイメージすること、そのうえで具体的な準備を考えることでした。人間味あふれる「先輩」役のナレッジ継承AIとの対話の中で、担当者の考えが整理され、リニューアル工事を具体的にイメージできるようになれば、仕事の質が向上し、仕事を進めるうえでの助けになると思います。

木村 ナレッジ継承AIは大林組の事業にどのようなインパクトをもたらすでしょうか。

島田 いま、新築での工事実績がリニューアル業務に必要とされており、あるいはリニューアル工事の実績を新築工事へ活用していく「逆向きの知識移転」も必要とされています。ただ、新築とリニューアルすべての現場が、同等レベルで必要な情報にアクセス可能な環境にあるかというと、必ずしもそうでない場合があります。今後、AI活用を進めることで部門を超えたナレッジ循環を促進したい。それは、社員同士のコミュニケーションの活発化にもつながるでしょう。

中嶋 ナレッジ継承AIを活用することで、お客様への対応力、提案力を高めることもできるでしょう。そうした活動を通じて、より多くのお客様から「建物のことなら大林組に任せれば大丈夫」と思っていただけるようになりたいと考えています。

木村 建物のライフサイクルでデータを十分に活用できるようになることは、社内外で恩恵を受ける方も多いですし、事業インパクトも大きい取り組みだと思います。一方、これを実現させるためには、AI Readyなデータとそれを支える基盤・技術の検討も必要です。新しいコンセプトや技術が目まぐるしい速さで世に出てきています。引き続き、大林組の目指している姿実現のため、ご支援できればと思います。

※次回、調達本部とBPR部で進めている「AI BPR」「サプライヤー関係管理の高度化」「新見積業務」などについて紹介する予定です。

現場の知恵や判断力を今後の仕事の進め方に活かす

大林組
建築本部 副本部長兼本部長室長
三栖健一

工事事務所長および生産技術支援部門を経て
2026年4月より現職

 

 

 

 

 

 リニューアル工事は、これからの国内建築事業において、ますます重要な領域になると考えています。建物を新しくつくるだけでなく、長く使い続けていただくために、建物の価値を守り、高め、次世代につなぐ。その役割は、社会全体からも期待されている分野だと思います。

 島田さんが日頃から大切にしているのは、リニューアル工事を担う全国の定置工事事務所を単に管理するのではなく、そこで働く所長や所員の知見をつなぎ、互いに学び合える環境をつくることです。リニューアル工事は、建物の年数や使われ方、あるいはお客様のニーズによって多様であるため、工事現場での判断や工夫の経験値がとても大きな意味を持ちます。そこで蓄積された知恵を、個人の中だけに留めず、組織全体の力に変えていくことが求められているのだと考えます。その意味で、今回の「ナレッジ継承AI」の取り組みは、大変意義深いものだと捉えています。

 ベテラン所長の「自分の経験を後輩に伝えたい」という想いを受け止め、AIを活用して次世代につなげようとするスタンスからは、島田さんらしい構想力と、それを具体的に形にしていく実現力が伝わってきます。

 当社が目指している業務変革は、単に便利な道具を導入することではありません。現場で培ってきた知恵や判断力を、これからの仕事の進め方にどう活かすか、という挑戦です。島田さんには、リニューアル部門の取り組みを起点に、今回のような価値ある業務変革を推進していく存在であってほしいと期待しています。

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