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AIの価値を効率化に留めない――総合建設会社の大林組が積極的にAI活用に取り組んでいる。現在進行中のプロジェクトの一つが「ナレッジ継承AI」である。現場経験豊かなベテラン社員の暗黙知を形式知化し、AIが利用できる形式に整え、AIエージェントを通じて次世代に引き継ぐ。本プロジェクトは、ある社員の「これまでの経験を後輩に伝えたい」との想いからスタートした。大林組とPwCコンサルティングのコラボレーションにより、その想いにナレッジ継承AIという形が与えられようとしている。
前回の対談
「新しい仕事のスタイル2.0――大林組がAIで挑む業務プロセス変革」
現場を知り尽くした所長の想いに応える
木村 大林組のリニューアル部とBPR部が進めている「ナレッジ継承AI」エージェントの構築についてお聞きしたいのですが、まずはリニューアル部やリニューアル工事について教えてください。
島田 建物の修繕・リニューアル工事は当社国内建築事業の売上げの約2割を占め、その割合は年々高まっています。現場を担うのは、全国100カ所の定置工事事務所(特定の発注者や地域を対象に、改修・メンテナンスなどを継続的に担う拠点)。本社リニューアル部はそのまとめ役です。案件としては、主として当社が建設に携わった施設建物を対象として、案件の引き合いから見積施工管理まで一貫して担います。時には、小規模な新築工事を担当することもあります。その所長には、施工管理技術とともに、豊富な経験と知識が求められます。
建築本部本部長室
リニューアル部長
島田雅世氏
木村 今後、ますます重要になっていく事業ですね。リニューアル部としては、全国の定置工事事務所をサポートするような取り組みをされていると思いますが、いくつか取り組みを教えていただけますか。
島田 リニューアル部では、全国の定置工事事務所の業務基盤強化と活性化、ならびにネットワークの強化・知見の共有を軸とした取り組みを行っています。その一例が「全店定置所長代表者会議」です。各地の所長が集まり、日々の課題や取り組みについて支店間を横断して率直な意見交換を行い、今後の方針検討や課題解決のヒントを持ち帰ってもらっています。また、社内報「マンスリー大林」に掲載中の「動く、定置。」を通じて、定置工事事務所の魅力や取り組みの発信にも注力しています(図表1)。
図表1 大林組社内報「マンスリー大林」に連載されている「動く、定置。」と全店定置所長代表者会議の様子
木村 定置工事事務所の所長をはじめ、深い知見を持っているベテランは50代が多く、今後5~10年で退職される方も少なくありません。人手不足と高齢化が進んでいる建設業にとって、ナレッジ継承は特に大きな課題と考えています。
島田 私自身、課題感を持って対策を考えていたのですが、そんな時にある所長から相談を受けました。新築マンション建設、マンションリニューアルなどの経験が豊富なベテランです。「自分はもうすぐ退職するが、その前に知っていることを後輩に伝えたい」と。想いを聞き、ぜひとも実現させたいと思いました。「全国を回って話したい」とのことでしたが、どんなやり方がいいのかわかりません。そこで、BPR部に話を持ち込みました。
中嶋 AIの活用を前提として、業務プロセスを再設計することが、2026年3月に発足した新生BPR部のミッションです。我々の活動で目的に掲げる「組織知の最大化」の文脈に沿うものと捉えました。幅広い産業分野での事例を含めた専門知識がほしいと考え、以前からデジタル変革やBPR活動で支援を受けているPwCコンサルティングにも話を聞いてもらいました。
グローバル経営戦略室
BPR部長
中嶋 潤氏
木村 所長みずから全国を回りたいと話しているとお聞きし、非常に感銘を受けました。どうにか力になりたいと思ったのと同時に、アナログなやり方では膨大な時間がかかります。そこで、当社が提案したのがナレッジ継承AIの取り組みです。2026年2月頃に最初のアイデアが出て、4月からプロジェクトがスタート、3カ月後には試作品(プロトタイプ)ができ上がりました。現在、大林組全体に広げるための型化と精度を高めるためのさまざまな工夫をしている段階です。