経営理論と哲学の関わり

 本連載も、あと2回となった。今回と次回(最終回)は連載の締めくくりとして、経営理論と哲学の関係を論じる。今回は特に、「経営理論の科学哲学による整理」について解説する。

 言うまでもなく、経営学は社会科学の一部であり、いわゆる科学性を重視している。しかし、「そもそも何が科学たりうるのか」「科学をいかに捉えるか」は、それほど簡単な問題ではない。それ自体が極めて根源的、本質的な問いであり、この問いに答えようとするのが科学哲学である。

 実際、トップクラスの学術誌に掲載される経営理論の論文を読むと、「存在論」「認識論」といった科学哲学の用語が少なからず登場する。欧米のトップクラスの経営理論の大家と話すと、科学哲学を前提にした議論が自然に出てくる。経営理論の本質を理解するうえで、科学哲学は欠かせないのである。

 一方で、科学哲学は抽象的で、難易度も高い。実は拙著『世界標準の経営理論』を執筆した2010年代後半にも、筆者は科学哲学のことを論じるか悩んだ。しかし、その難易度や、何より日本の読者に「世界標準の経営理論」という考え方が浸透していなかったこともあり、当時はこのテーマを取り上げなかった。

 だが、拙著が刊行されて約7年が経ち、多くの方が経営理論に関心を寄せてくださるようになった。さらには、AIが急速に普及し、表層的な情報はAIで得られるようになった。だからこそ、むしろ人間には深く物事を考えることが求められ出しており、哲学の重要性があらためて注目されている。世界最先端のAIであるClaudeシリーズを提供するアンソロピックに、哲学者アマンダ・アスケルがいることは、その象徴だ。

 そこで、この連載を締めくくるに当たり、学問の根源である哲学と経営理論の関わりを解説することが重要と考え、最後の2回でこのテーマを論じることにした。本連載・拙著を通じて、経営理論は大まかに「経済学」「心理学」「社会学」から知見を借りてきたものであることは、何度も述べてきた。本連載では、それらをディシプリンと呼ぶ。読者の中には経済学ディシプリンが好きな方もいれば、心理学ディシプリンや社会学ディシプリンにより共感する人もいるだろう。これらのディシプリンのさらに奥にあり、理論を支えているのが科学哲学だ。

 したがって、科学哲学の基本を理解することは、読者の皆さんの経営理論への理解をさらに深めることにつながる。それだけでなく、みずからの思考の立ち位置を把握し、他者や企業の根源的な思考や行動を理解することにもつながるのだ。

 ここで留意点を2つ述べたい。第1に、科学哲学は広範な学問であり、経営理論との関わりもさまざまな角度で捉えられる。本稿では、筆者が特に重要と考える論点に絞って解説する。

 第2に、哲学は本来難解であり、また難解で考え続けるからこそ哲学であるともいえる。しかし本稿は、ビジネスパーソンをはじめとする読者を想定していることから、できる限りわかりやすい解説を行う。「わかりやすく哲学を解説する」こと自体が、ある意味で哲学的ではないのかもしれない。哲学者、哲学研究に最大限の敬意を払いつつも、あえてわかりやすさを重視した解説を行うことをご容赦いただきたい。

 ではまず、哲学とは何か、科学哲学とは何かについて大まかに解説しよう。