いま問い直される企業の立地の役割

 JPモルガン・チェースが、ニューヨークのパークアベニュー270番地に数十億ドルをかけて建設した新本社ビルは、高さが約1400フィート(約420メートル)、広さは一ブロック分丸ごとだ。レストラン、小売店舗、緑地を備えた大規模な公共広場を中心に構成されている。

 ファイザーとブラックロックも、ハドソンヤードに建設された意匠を凝らした高層建築に本社を移転した。これらの建物の低層部やその周辺には、商業施設、地下鉄駅、公共空間などが重なり合い、高密度エリアとなっている。また、別の総工費数十億ドルの超高層ビルであるワン・バンダービルトは、グランドセントラル駅直結で、レストラン、ラウンジ、テラス、ミーティングスペースが入った「垂直都市」を形成している。

 大西洋を隔てたロンドンでは、グーグル、メタ・プラットフォームズ、ユニバーサル ミュージックによって、キングスクロス駅近くの操車場跡地が、テクノロジー、メディア、クリエイティブ企業の一大拠点へと変貌した。

 企業本社の存在意義が薄れていく──そう思われているまさにこの瞬間に、前代未聞の巨費を投じて、とてつもないスケールでそれらの再構築が進行している。都市の中に溶け込み、都市生活のエネルギーを取り込む、新しいタイプの都市型キャンパスとして生まれ変わっているのである。

 筆者らはこの新しい企業拠点モデルを「ナレッジ・キャンパス」と呼ぶ。これは従来型のオフィスタワーよりも大学のキャンパスに近く、仕事や打ち合わせ、学習、社交、移動といった日常生活のあらゆるリズムを、ひと続きの密接につながった空間で受け止める。これらのキャンパスは主要交通ハブに直結していることが多く、生活の質と仕事のパフォーマンスの両方を大いに損なう通勤時間が短縮されるため、労働者の生産性と生活全体の満足度が向上する。

 加えて、ナレッジ・キャンパスへの移行が進んでいるのは、世界のスーパースター都市だけではない。単一目的のオフィス街や住宅街の開発から脱却し、仕事、日常生活、人のつながりをより動的に融合させる環境を目指す流れの中で、あらゆる規模の都市、さらには郊外や田園地帯においても、さまざまなバリエーションが登場している。

 本稿では、ナレッジワーカーを対象とした詳細な調査および世界13都市の中心部にある主要ビジネス街の分析に基づいて、「場所」が人材獲得と生産性を左右する重要な要因になった経緯と、その理由を解説する。

 次に、東京の中心部にある代表的な2地区を出発点として、この新しいモデルを構成する4つの要素を概説する。そして最後に、ビジネスリーダーが「立地」を単なる不動産コストやステータスシンボルと捉えるのではなく、戦略の中核要素や競争優位の源という視点からより慎重に検討するための基本原則を提示する。

生産性と場所の関連性

 オフィスは復活しないと思われていた。デジタルテクノロジーの進化によって、時代に取り残されるはずだった。パンデミックの最中には、リモートワークやハイブリッドワークに未来があるように見えた。

 ところが、予想されていた「オフィスの終焉」は訪れなかった。むしろ、オフィスは再発明されようとしている。なぜなら、コラボレーション、判断、学び合いに依拠する仕事では、やはり「一緒にいること」が重要だからだ。実際に隣で一緒に働けば、連携が生まれやすく、組織の基盤となる信頼関係が同僚との間に育まれる。つまり、コラボレーション、イノベーション、人材獲得の手段として、企業本社は消滅するどころか再構築されているのである。