日本の超老舗企業はどのように不確実性を乗り切ってきたのか
画像提供:株式会社虎屋
サマリー:1994年から2024年にかけて、日本のファミリー企業は、はるかに小さいリスクで、米国、ドイツ、カナダの比較対象企業と同等以上のリターンを上げてきた。その強みは、より優れた未来予測ではなく、言わば会社のアーキテクチャーにあった。明確な経営理念と超長期的な視点、そして自社の価値観を投影した事業運営、規律ある進化、長期的な資本運用、綿密な事業承継計画が、彼らのレジリエンスを支えている。これらの原則は、地域や企業の所有形態の違いにかかわらず、多くの企業にとって不確実性を乗り越えていくための示唆に富んでいる。

「とらや」から何を学ぶべきか

 第2次世界大戦中の1945年、16世紀から続く日本を代表する菓子屋であるとらやは、空襲により東京の主力工場を失った。戦争はまだ続いていたが、とらやはただちに再建に乗り出した。後には、砂糖が不足して日本の先行きが不透明な状況でも、事業を継続し、試行錯誤を重ね、前に進み続けた。

 その背景にあった考え方は、至ってシンプルだった。菓子をつくることこそが自分たちの存在理由であり、自社を取り巻く世界で何が起きていようと、菓子づくりを続けようと決意していたのである。それは、日本国内に3つの工場と約80の店舗を擁し、フランスのパリにも店舗を構えるようになった今日も変わっていない。

 とらやのような企業はどのようにして、何世紀もの政治や社会、経済が変化する中を生き延び、繁栄してきたのか。今日、人災や天災が増加し、貿易紛争が激化して、AIが物事を根本から変えつつある現代の組織は、とらやの経験から何を学ぶべきだろうか。

 米国を代表するS&P500の採用銘柄の平均在籍期間は、1960年代半ばには約33年だったが、2020年の時点ではおよそ21年になっており、コンサルタントたちの予測によると、2020年代の終わりまでにさらに15~20年まで短縮する見通しだという。そのような状況を踏まえると、この問いはひときわ重要な意味を持つ。

 このため筆者らは、日本で上場している大手ファミリー企業59社および日本の非ファミリー企業、そして、米国、ドイツ、カナダのファミリー企業および非ファミリー企業について、1994~2024年の業績を比較することにした。また、それに加えて、日本有数の老舗企業であるとらや、織物メーカーの細尾、そして茶筒メーカーの開化堂という3社の経営者にインタビュー調査も行った。

 筆者らが日本に着目したのは、特に歴史の長い企業が多いというだけでなく、この30年間、先進国の中で最も過酷な経済環境に置かれてきたことが理由だ。日本では、過去30年のうち15年間は、物価が下落または横ばいで推移しており、65歳超の人口がおよそ2倍に増加し、GDPもドル換算でおよそ2割縮小した。同期間に米国のGDPは4倍に増加している。

 しかし興味深いことに、国ごとの経済状況の影響を調整して分析すると、日本の大規模なファミリー企業の総資産利益率(ROA)は米国の同様の企業と肩を並べており、ドイツおよびカナダの同様の企業を上回っていた。しかも、日本企業は時間とともに米国企業との差を縮めていった。2014年から2024年にかけては、ROAの絶対値でも米国企業と匹敵するようになった。さらに、30年間の全体にわたり、日本企業のROAの変動幅は米国の比較対象企業の半分程度に留まっている。

 要するに、筆者らが調査した日本企業は、他国の調査対象企業とほぼ同等、もしくはそれ以上の収益性を有しており、しかも他国よりもはるかに厳しい状況にありながら、リスクもはるかに小規模に留めているのだ。

理念と視座、規律

 冒頭で紹介したとらやの事例は、こうした日本のファミリー企業がこの30年間を、そしてそれ以前の何世紀もの期間をどのように乗り切ってきたかに光を当てるものといえる。

 これらの企業の指針になってきたのは、未来予測ではなく、言わば会社のアーキテクチャーだった。自社の存在理由、変化してよい要素と変化すべきでない要素に関する考え方がしっかりしているのだ。ファミリービジネスに長年携わってきたアドバイザーの言葉を借りれば、このような企業は、「家族による統治から理念による統治へ」の転換を遂げている。

 これらの企業のリーダーは、時間に対する考え方も独特だ。複数の日本企業で取締役を務めている人物は、こう述べている。「ファミリー(創業家)の視点から見れば、3年や4年、あるいは10年という期間は、100年の歴史のごく一部にすぎない……。はたから見ると非合理に見える行動も、こうした時間軸で考えると理にかなっている場合もある」

 筆者らの研究を通じて、とりわけ強いレジリエンスを発揮している企業は、パーパス主導の理念と超長期の視点を、以下の4つの規律に従って実践していることが明らかになった。