属人性を最小化し、核となるノウハウを引き継ぐ
――大林組の具体的な調達プロセス、その課題と変革の方向性について教えてください。
毛利 調達プロセスは、その前段階である積算見積プロセスと密接に関連しています。設計図書をもとに、積算見積部門は調達部門とも連携して数量と原価見積額を算出し、受注決定後、調達部門による協力会社の選定・調達がスタートします。しかし、以前は積算見積と調達とが別々の指揮命令下にあり、また、積算見積プロセスは必ずしも全店で標準化されておらず、各店各様の業務ルールも存在していたため、このような状態を見直す必要がありました。調達本部を設置したことで、全店が同じ基準、同じプロセスで積算見積を実施できる環境が整いました。これまで各店ごとに蓄積されていた知見を全社で共有・活用するために標準化を進めてきたことで、蓄積するデータの質も向上しています。
さらに、データ基盤の整備と共に、新たな見積業務プロセスの構築にも取り組んでいます。積算見積から調達に至る業務を一貫したプロセスとして連携させることで、データ活用の高度化と業務品質の向上を目指しています。
山口 実績データを蓄積・分析することで、次の見積の精度を高めることができます。また、業務プロセスを標準化すれば、各店間で人的リソースを柔軟に配置することもできるでしょう。積算見積から調達までを一連のプロセスとして再設計することで、同じデータを一貫して利用し、実績を次の判断へ戻すことができます。このデータ循環が、AI活用の前提にもなります。
毛利 労働力人口の減少、資材価格の大きな変動などの課題に対しては、全体最適の視点から需給や価格変動のリスクを捉え、安定した建設生産につなげていくことが重要だと考えています。AIを含むツール群が揃ってきましたので、このタイミングを好機と捉えて、当社建設事業のサプライチェーンを強化したい。AI活用においても、サプライチェーンをつなぐ位置にある調達が担うべき役割は大きいと思っています。
――AI活用については、調達プロセスにどのようにAIを組み込むのでしょうか。
中嶋 私たちBPR部は、AIを前提とした調達業務の再設計という観点で調達改革プロジェクトに参画しています。その前段として2022年から積算見積業務におけるプロセスおよびデータの標準化を進めてきたこともあり、データはAI Readyな状態に整いつつあります。その活動があって、現在はAIを活用した変革へと歩を進めています。
グローバル経営戦略室
BPR部長
中嶋 潤氏
山口 現在取り組んでいるのが積算見積プロセスへのAI適用です。AI活用の目的は、人の仕事を単純に置き換えることではありません。情報の検索や整理、定型的な分析はAIが支援し、人は原価のつくり込み、リスク判断、関係者との調整といった、専門性が求められる仕事により多くの時間を使う。積算見積の土台ともいえる原価の感覚は、建設業の根幹に関わるノウハウです。このプロセスをすべてAIに委ねることはできません。そこで、「Human-in-the-Loop」のAIプロセスの構築を進めています。
建設業・住宅業・エンジニアリング業界
シニアマネージャー
山口貴之氏
中嶋 積算見積におけるAIの役割は、人が判断する材料を整えることです。人とAIが協働することで判断の質が一定水準に保たれる。当面、人の役割がなくなることはありません。
――積算見積業務に限らず、「業務の属人化」という問題もあるかと思います。
枝常 業務の属人化は、既存システムそのものの問題ではなく、各店が独自の運用ルールを積み上げてきた結果だと思います。
山口 プロジェクトごとのデータはそのシステムに入っていますが、たとえば特定の部材や類似の建物で検索する時、すぐにほしいデータを、必要な粒度で呼び出せる形にはなっていません。そこで、AIを活用することで、見たいデータを即座に見られるような仕組みづくりを進めています。具体的には、Microsoft Azureを活用し、データの整備・加工および分析に関する技術検証を進めています。
毛利 積算見積部門の担当者はベテランが多く、そのノウハウの継承は大きな課題です。業務プロセスの標準化とAIプロセスの導入により、属人性を最小化したうえで、核となるノウハウを次世代へと引き継ぐことができる、そうした仕組みの構築を目指しています。