サマリー:資材価格の変動、人手不足、供給制約など、建設業を取り巻く環境が大きく変化する中、調達は単に必要なものを安く買う機能から、事業の安定性・収益性・競争力を支える戦略機能へと変わりつつある。大林組は、積算見積から調達までのデータとプロセスを標準化し、業務全体を再設計する調達改革を推進している。AIを組み込んだプロセス構築、協力会社などとの窓口になるサプライヤーポータル構築などのプロジェクトについて、その狙いと将来像を聞いた。

建設業において積算見積や調達は重要な業務だ。大林組はこれらに関係するデータとプロセスを標準化し、業務全体を再設計する調達改革に取り組んでいる。現在、業務プロセスとデータの標準化や協力会社とのコミュニケーション改革、さらには、AIを業務へ組み込むプロジェクトが進行中だ。大林組のキーパーソンである専務執行役員調達本部長の枝常茂氏、調達本部副本部長の毛利智恵子氏、BPR部長の中嶋潤氏、そしてこのプロジェクトに伴走するPwCコンサルティングのパートナー執行役員、木村安孝氏、シニアマネージャーの山口貴之氏に調達改革の概要と狙いなどを聞いた。

前回の対談
「新しい仕事のスタイル2.0――大林組がAIで挑む業務プロセス変革」
「ベテラン社員の知見を次世代につなぐ、大林組「ナレッジ継承AI」の挑戦――新しい仕事のスタイル2.0」

環境変化を受けて高まる調達の重要性

――大林組は2023年10月に調達本部を立ち上げましたが、その狙いについて教えてください。

枝常 大林グループは、中期経営計画2022の基本戦略の一つとして「建設事業の基盤の強化と深化」を掲げ、高付加価値化と建設プロセス強化による競争力と採算性の向上に取り組んでいます。2023年10月に社長直轄の本部組織として「調達本部」を設置し、全店的な調達にかかる企画立案機能に加え、従前は本支店ごとに行っていた主要資材の調達機能も担う組織とすることで、全店単位での戦略的・効率的な調達を推進しています。

 調達の戦略と実務を一体で推進する“調達の司令塔”が必要であると判断し、その役割を担う組織として調達本部が生まれました。調達業務の集約によるコストの最適化に加え、調達関連の情報を一元化して分析・活用することで、さまざまな気づきを得ることができます。また、サプライヤーとのコミュニケーション強化により、信頼関係をよりいっそう確かなものにできると考えています。これまで各本支店や現場が培ってきた調達力を活かしながら、全社単位で戦略と実務を一体的に推進することが狙いです。

大林組
専務執行役員
調達本部長
枝常 茂氏

木村 建設業だけでなく、あらゆる産業で「調達」に求められることが多様化し、経営アジェンダとしての重要度が高まりました。これまでのコスト面の追求に加え、パンデミックや地政学リスク、人手不足や資材価格の高騰を受けながらの安定調達、サステナビリティや人権などの要請への対応、営業・設計・現場・経営企画部門などと連携した企画機能も求められています。

枝常 調達本部の設置に合わせて、私たちが調達を通じて何を実現するのかを調達業務ポリシーとして整理しました(図表)。価格だけを追求するのではなく、品質、納期、供給力、リスクを総合的に判断するとともに、協力会社との共存共栄を目指すことが基本的な考え方です。

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図表 大林組の調達業務ポリシーの概要

木村 PwCコンサルティングは、この調達ポリシーの策定を含め支援させていただきました。ポリシーは理念を示すだけのものではなく、積算見積・調達プロセスの標準化や、サプライヤーポータル、契約・支払い条件の見直しなど、個々の施策の判断基準になるものです。

PwCコンサルティング
建設業・住宅業・エンジニアリング業界
パートナー執行役員
木村安孝氏

――集中調達が効果的な分野がある一方、従来通り現場での調達のほうが合理的なものもあるかと思います。

枝常 当初は、鉄骨工事や杭工事、アルミカーテンウォールなど4つの品目・工事について、調達業務を集約しました。それが現在は16に増えました。調達権限は3階層に分かれています。調達本部、東京・大阪の本店および各地の支店、そして各現場です。どこが権限を持つかはさまざまな要素で決まりますが、基本的には労務費比率の高いものほど現場で調達するケースが多いです。

木村 調達本部の設立から3年が経ちましたが、最初はスモールにスタートしたところから、対象領域がかなり広がった印象です。

――調達本部の立ち上げから3年。どのような成果が生まれていますか。

毛利 先行調達・集中調達の社内浸透に加え、調達部門に関する役割分担について現場の理解が進んできました。プロジェクトの最前線にいる現場を支援する方針のもと、着工前に開催する「調達現場会議」で、調達部門と現場の役割分担や協働体制を確認しています。こうした取り組みを通じて、以前よりも全社最適の視点で調達を捉える場面が増えてきました。現場からは、コスト面に留まらず、業務効率化の面でもメリットを感じるとの声も寄せられています。

大林組
調達本部 副本部長 兼 本部長室長
毛利智恵子氏

――建設業において、調達の役割はどのように変わってきたのでしょうか。

山口 最近は建設資材の高騰がよく話題になりますが、相場が大きく変動する中でリスクを最小化するためには、データの支えと裏づけが欠かせません。協力会社との共存共栄の関係を維持しつつベストプライスを引き出すためにも、調達業務の高度化は極めて重要なテーマだと思います。単純に最低価格のものを選ぶといったやり方ではなく、品質と価格、納期、供給力、リスクを総合して判断する必要があります。