イノベーションとパフォーマンス

 いまやほとんどの企業が持続可能性プログラムを実施している。二酸化炭素の排出を抑え、廃棄物を減らすなどして、経営効率を高めている。だが、そうした戦術を無秩序に寄せ集めたところで「持続可能な戦略」にはならない。持続性のある戦略は、投資家、従業員、顧客、政府、NGO(非営利組織)、社会全般という、すべてのステークホルダーの利益にならなければならない。そしてそのためには、株主価値の向上と同時に、環境・社会・ガバナンス(ESG)の各次元で企業のパフォーマンスを高める必要がある。

 企業はこれを百も承知でありながら、どうしても「よい行い」に対する財務的な成果を求めてプログラムを立ち上げてしまうことが多い。たとえ、よい行いが自社の戦略や事業と無関係であってもだ。

 ここに大きく欠けているのは、財務パフォーマンスとESGパフォーマンスの間には厳然たるトレードオフが存在するという理解である。一方を改善すれば他方が犠牲になる、というのが基本的な構図なのだ。お金のかかる太陽エネルギーを使うのは環境にはよいけれども、利益にはたいてい都合が悪い。従業員に相場以上の賃金を支払えば、地域社会は潤うが、利益は食い潰される。資本市場はこのことをわかりすぎるくらいわかっている。だから、財務パフォーマンスを向上させないESGプログラムには報いようとせず、企業戦略に関係あろうがあるまいが、財務業績をむしばむプログラムを実施する企業の評価を低くするのである。