CFOは最後の砦
CEOとの相互信頼が不可欠
続いて、壇上に残った伊藤氏と元富士フイルムホールディングスCFOの髙橋俊雄氏の対談が行われた。2000年代、デジタル化という大きな環境変化に対し、同社はみずからを変革することで立ち向かった。かたや、巨人と呼ばれたコダックは大きな波に飲み込まれた。両社の軌跡を振り返り、髙橋氏は次のような考えを示す。

代表取締役専務執行役員CFO
髙橋俊雄氏
「企業経営に当たって重要なポイントは、自社の強みを深く認識すること、それを踏まえて経営の方向を考えていくことだと思います。富士フイルムはメーカーですから大事なのは技術です。深いレベルで保有技術の棚卸しをし、そこから新たな事業を育てようとしました。ここで大事なことは、高収益の既存事業を持つ企業の経営者が、新規事業に対してどれだけ我慢できるかということ。投資回収に時間のかかる新規事業を切れば、短期的に収益が改善するのは明らかです。『これは必ず大きな事業になる』という確信が経営者になければ、新規事業は育てられません。富士フイルムもすべてうまくいったわけではありませんが、いくつかの事業の芽は育った。コダックは方針の徹底さを欠いた。いろんな側面がありますが、この点も、両社の違いの大きなものだったように思います」
どの新規事業を我慢し育てるか、あるいは撤退の判断を下すか。経営者には冷徹な意思決定が求められる。適切な判断をするうえで、伊藤氏は社長在任期間が大きな意味を持つと指摘する。
「日本企業の場合、在任期間4~6年の社長が多く、1人の社長が仕込みと回収をするのは難しい。その点、富士フイルムは在任期間が比較的長い」
次に、テーマはCEOとCFOの関係へと移った。
「CEOとCFOは同じ目標を共有していますが、視点は違います。CEOはどちらかというと市場など外部を見ていますが、CFOは内部的な志向が強い。CEOがどのような方向を目指すにせよ、企業が揺るがない状態をつくるのがCFOの仕事です。その意味で、CFOは最後の砦。それだけの覚悟を持たなければなりません。その役割を果たすためには、資金面はもちろん、製品、人材、組織などさまざまな側面を考える必要があります」と髙橋氏は振り返る。
そして、先に伊藤氏が「正当なる二重人格者」と述べた点に関して、次のように同意する。
「CFOは『これ以上進めばダメージが大きい』『絶対にやめるべき』という判断基準を持っていなければなりません。その一方で、事業をサポートする立場でもあります。両方とも、CFOの重要な役割なのです。時には、事業撤退などの判断がCEOとは異なる場合も出てくるでしょう。立場や視点が異なる以上、それは当然起こりえます。それでもなお強固なパートナーシップを維持できるかどうか。そこには、CEOとCFOの相互信頼、リスペクトが不可欠だと思います」