人々を導くリーダーシップの本質は何か──。古くから多くの歴史家や思想家をとらえてきた問いである。野中郁次郎氏もその一人だ。野中氏はアリストテレスの提唱した「フロネシス」(賢慮)という概念を手掛かりに、組織を率いるリーダーのあり方を考え続けてきた。

リーダーシップの本質が端的なかたちで表れるのは、極限状況においてだろう。その意味で、戦闘における指揮官に学ぶべきことは多い。リーダーとしての資質を備えた指揮官もいれば、その一部を欠いた指揮官もいる。両者を比較検討することにより、リーダーシップの要件を明らかにすることができるのではないか。

本稿では、牛島満、栗林忠道、牟田口廉也、根本博、木村昌福、栗田健男という日本陸海軍の将官6人を取り上げ、硫黄島と沖縄での戦い、インパール作戦とモンゴルからの撤退、レイテ沖海戦とキスカ島撤退という3つの対比から、フロネシスを備えたリーダーシップの本質を考察する。