リーダーに必要なのは、緻密な作戦・戦略眼に支えられた冷静な状況判断能力である。軍の指揮官には、さらに、勇敢かつ想像力に富んだ作戦能力が求められる。激情と闘魂に駆られ勇猛心を発揮する力もまた、指揮官に欠かせない資質である。冷静緻密な頭脳や的確な判断力を備える指揮官は、昭和の陸海軍にもいた。だが、知性・教養と勇猛心、寛容と闘魂、粘り強さと決断力、これら異なるベクトルを合わせ持つリーダーがいなかった。唯一、類稀なこの資質に恵まれた人物が、ミッドウェー海戦で戦死した山口多聞司令官である。
アメリカ海軍の猛将ハルゼーと比較される山口は、日米海軍が雌雄を決したミッドウェー海戦において、ただ一人、敵の主力空母を大破した日本の指揮官である。明晰な頭脳と胆力を備え、負け戦のなか戦果を上げたリーダー・山口多聞に学ぶ点は多い。本稿では、山口のリーダーシップの本質を判断力、勇猛心、責任感という3つの視点で論じる。