特異な資質を持つ「トライセクター・リーダー」

 ザ・コカ・コーラ・カンパニーは10年前にインド南部で大きな危機に直面した。大量の水を使用するとして政府や複数のNGO(非政府組織)の強い反発に遭い、この地域での清涼飲料水の製造を禁止されたのである。水は製品の原料となるばかりか製造プロセスにも用いられ、1リットルの〈コカ・コーラ〉を製造するのに3リットル超もの水が消費されていた。

 この危機を受けてコカ・コーラでは、水資源の持続可能な利用に向けた戦略を立案するため、環境・水資源部門を新設して外部から招聘したジェフ・シーブライトを責任者に据えた。シーブライトは、テキサコ(現シェブロン)の政策立案担当バイス・プレジデントをしばらく務めた以外、民間セクターでの経験がなかった。しかし、アメリカ国務省外交局、上院、USAID(国際開発庁)、クリントン政権のホワイトハウス気候変動タスクフォースなどにおいて、幅広い政治・外交経験を積んでいた。

 彼は水資源の保護に向けた具体策を立案するために、政府の環境関連部局でよく使われるツール、GIS(地理情報システム)地図の作成を手配した。できあがったGIS地図を見ると、コカ・コーラの工場の39%は世界で最も水不足が深刻な地域に立地していた。そこは、将来の事業成長の大半が見込まれる地域でもあった。