1997年に創業し、アマゾン、イーベイに次ぐ世界第3位のeコマース・サイトとなった〈楽天市場〉。創業者の三木谷浩史は、効率的に規格品を並べるスーパーマーケットや自動販売機のような売り方ではなく、中小の店舗が集まってそれぞれの特徴を打ち出せる、人間味あふれる商店街をウェブ上に実現することを考えていた。これはアマゾンなどの競合他社とは大きく異なる点だ。つながりやコミュニケーションを大切にするため、店舗の個性を引き出せるよう、品質やサービス上の問題に目配りしつつ、ページのデザインや顧客とのやりとりは各店舗に任せている。eコマースの利点を引き出すにはデータに頼ることも必要かもしれない。また価格や効率、スピードで訴求することも大切だろう。しかしそのうえで、人とのつながりを感じさせる楽しいショッピング体験を提供することが、楽天の目指すeコマースである。

つながりを重視した小売サイト

 初めてオンラインで買い物した時のことをいまでも覚えている。1996年10月のことだ。四国の小さな店から、うどんを買った。支払い手続きは昔ながらの方法だったが、注文した品物は後日郵便で送り届けられた。聞き及んでいた通りの便利さで、その時、オンライン・ショッピングはいずれ当たり前になると直感した。

 当時、私はすでに楽天の創業を計画していた。ネット上で〈楽天市場〉がスタートしたのは約6カ月後の97年5月である。目標はシンプルだった。「中小の事業者がネット上で簡単に出店できる機会を提供する」。毎月一定の出店料をいただいて、追加料金で広告や販促もできる仕組みである。

 我々のeコマースへの取り組み方は、アマゾン・ドットコムをはじめとする多くの他社のやり方とは大きく異なる。そうした他社が提供するeコマースは、言ってみれば自動販売機──規格品を扱う超効率的なスーパーマーケットである。それは、人をわくわくさせるようなアプローチではない。人間はコミュニケーションやつながりを求めており、ショッピングはそうしたところが豊かな体験でなければならない、と私は思う。そう思うのは受け継がれてきたものがあるからかもしれない。