東京理科大学大学院イノベーション科の伊丹敬之研究科長による、日本産業の再生に向けた提言の3回目は、「インフラ」をキーワードに考える。これには、「インフラ産業の日本」と「インフラ産業としての日本」という異なる視点がある。
日本のインフラ産業は
世界一の技術ポテンシャル
「JFEがミャンマーで水道施設の建設事業に参入」「カンボジアの高速道・鉄道を日本の支援で整備」「川重、米で地下鉄車両を受注」――。最近、日本企業による社会基盤(インフラ)技術の海外展開についてのニュースが増えています。

日本産業の可能性について、前回は「複雑性産業」を軸に考えましたが、もう1つ重要なのが「インフラ」です。日本のインフラ関連の技術やシステム、運用力は世界トップレベルです。その海外展開を志向することは極めて当然であり、また重要なテーマでしょう。
ただし、インフラについては、「インフラ産業の日本」と「インフラとしての日本産業」という2つの視点があることを強調しておきたい。
「インフラ産業の日本」とは、冒頭にも書いたように、インフラ関連の技術やシステムが海外に展開されるという意味です。一方、「インフラとしての日本産業」とは、日本製造業のさまざまな技術蓄積を、諸外国が産業活動のために使えるようなオープンな基盤として機能させること。日本産業が「技術供給インフラ」として活用されることで、海外で生み出される需要を取り込むための構造づくりと言ってもよいでしょう。
まず、「インフラ産業の日本」のポテンシャルや課題について考えてみましょう。社会インフラの技術やシステムの海外展開は、政府の成長戦略でも重要な柱になっています。水関連、電力、鉄道、リサイクル、スマートコミュニティ、再生可能エネルギー、情報通信、都市開発や工業団地等々の技術が、世界でもトップレベルにあるからです。
例えば、1年間の電力停電時間を比べてみると、東京の5分に対してニューヨークは12分、カリフォルニアは162分、ドイツは57分で、東京は圧倒的に低い。鉄道の定時運行率や水道清浄度の高さや漏水率の低さでも群を抜いています。直近では、福島第一原発の汚染水浄化装置として、東芝の「サリー」や「アルプス」が順調に稼働を続けており、仏アレバや米キュリオンなど“先輩格”の装置がトラブル続きであるのとは対照的です。
それだけ、インフラ産業としての日本の技術ポテンシャルは高いということなのです。