神経科学が明らかにした
4つの脳神経ネットワーク

 2011年にアップルの熱狂的なファンが新型〈iPhone〉を求めて行列をつくった時、『ニューヨーク・タイムズ』紙に「〈iPhone〉は文字通り愛されている」と題した論説が載った。そこには、16人の被験者に〈iPhone〉の振動や鳴動を見聞きさせた時の脳をスキャンして得た、未発表の実験結果が紹介されていた。スキャン画像が示すのは、島皮質(大脳皮質の1領域)と呼ばれる、我々が愛情を感じた時に活性化する部分の活動だった。論説には「被験者の脳は、恋人や家族、あるいはそれに近い存在と接した時と同種の反応を示した。彼らは〈iPhone〉に愛情を抱いていたのである」とある。

 この論説をめぐっては、何十人もの神経科学者が連名で『ニューヨーク・タイムズ』紙に抗議文を送付し、脳の神経画像を撮ると3件に1件の割合で島皮質の活動が検知されると指摘した。温度の変化を感じたり呼吸をしたりしただけでも、活動が生じるのだと言う。事実、当の『ニューヨーク・タイムズ』紙も2007年に、愛情と反対の感情を抱いた際にも島皮質が活性化するという論説を掲載している。「脳は政治の話題にこう反応する」という表題の下、島皮質の活動は嫌悪や反発といった感情と関連すると述べ、この傾向が最も顕著なのは男性が「共和党」という単語を目にした時だと主張したのだ。この論説にも専門家からの抗議文が寄せられた。

 これら2つの論説は、科学者が言う「エセ神経科学」の具体例である。有力メディアは神経科学の研究内容を極端に簡略化して伝え、「脳に着目するとリーダーシップやマーケティングの秘訣を解明できる」と謳うニューロコンサルタント業の躍進に一役買っているのだ。