サッカー界、希代の名将

 2013年5月に引退するまで、アレックス・ファーガソン卿はイングランドのプロ・サッカー・チーム、マンチェスター・ユナイテッド──スポーツ界で最も成功し、最も価値の高いフランチャイズ・チームの一つ──の監督として26回のシーズンを戦ってきた。この期間、チームはイングランドのプレミア・リーグで13回の優勝を収め、その他にも国内外で25のトロフィーを獲得した。この数は、イングランドのサッカー・チームの監督として二番手の実績を上げた人のほぼ2倍に当たる。しかもファーガソンは一介のスポーツ指導者をはるかに超える存在であった。彼はマンチェスター・ユナイテッドという組織の中核的存在であり、一軍チームを監督しただけでなくクラブ全体を運営したのである。「スティーブ・ジョブズがアップルそのものだったとすれば、アレックス・ファーガソン卿はマンチェスター・ユナイテッドそのものだ」と、前の最高経営責任者デイビッド・ジルは言う。

 2012年、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のアニタ・エルバース教授はファーガソンのマネジメント手法をじっくりと調査する貴重な機会を得、それを基にHBRケース・スタディを作成した。今回は、圧倒的な成功を生んだ氏のマネジメント手法を分析するため、2人のコラボレーションが実現した。

アニタ・エルバース:アレックス・ファーガソン卿が成し遂げた素晴らしい成功と、その成功を維持する持久力は、ぜひとも調査研究すべきほどのものだ。それも、単にサッカー・ファンの視点からではなくもっと幅広い視点から──。いかにして、あのようなことが実現できたのか。彼の成功を可能にした習慣や、その成功を導いた原則といったものが見つかるだろうか。こうして2012年(結果的に監督として最後のシーズン)、私は以前の教え子トム・ダイと2人で、ファーガソンのリーダーシップ手法について本人に徹底的なインタビューを何度も行い、さらにマンチェスター・ユナイテッドの練習場や有名な本拠地オールドトラッフォード(いまや外には前監督の9フィートのブロンズ像がそびえ立つ)で彼が実際に行動している姿を観察した。またファーガソンと一緒に働く多くの人々からも話を聞いた。デイビッド・ジルやチームの助監督たち、用具担当者から選手まで。さらに、ファーガソンは選手やスタッフと短時間の打ち合わせや会話を非常に多く行うのだが、その様子を廊下やカフェテリア、練習場のピッチ上、その他どこであれ会話が起きた場所で見守った。こうして生まれたファーガソンのケース・スタディが授業に使われるさまを見るため、本人みずからが後にHBSを訪れ、自分の意見を語ったうえ、学生からの質問に答えてくれた。おかげで私の教室は立ち見状態となり、大変魅力的な意見交換ができた。