コンピュータ業界と自動車業界
何が違うのか

 1981年のPCの登場により、コンピュータ業界に大規模な再編が起こったことはよく知られている。数年のうちにこの業界における価値は、コンピュータを製造・組立・販売するメーカーから、2つの主要な構成要素を扱う上流のサプライヤーへと移転した。その構成要素とは、マイクロソフトが支配するオペレーティング・システム(OS)と、インテルが支配するマイクロプロセッサーである。両社はまたたく間に株式の時価総額を高め、市場を独占していたIBMなど、最終製品の製造事業者のそれをしのぐようになった。

 このPCのストーリーは、知識経済における産業進化の雛型として、アナリストや戦略立案者の頭のなかに刻み込まれている。バリューチェーンのさまざまな段階をつなぐ接点がオープンになって標準化され、競争による各種コストの引き下げが可能になると、業界が非統合的な方向へ向かうのは理の当然ということらしい。そうなると価値や利益は、主要構成要素のサプライヤー、あるいはプラットフォームなど標準システムのオーナーへと移転するという。

 我々はこれに疑問を投げかける。我々の考えでは、業界の分散化は避けられないわけではない。価値の移転も、たとえ産業部門の分散化が起きても、やはり不可避ではない。激しい競争やイノベーションを特徴とする多くの産業が──破壊的技術の影響を受けやすい産業も例外ではなく──今後も強く統合され、伝統的なプレーヤーに支配され続ける可能性は十分にある。