アナリストたちは本当に戦略を評価できるのか

 CEOの口からはしばしば「金融市場は当社の戦略を理解していない」という不満が漏れる。私はかねてこれは負け惜しみにすぎず、実際の資本市場は企業戦略の本質を見抜く術に長けているはずだと推察していた。たいていの研究者や金融関係者と同じく、私もまた、優れた戦略は市場の知恵に沿うものであるはずだと考えていた。つまるところ、企業の目的は株主価値の創造ではないだろうか。そうであれば、投資家の望む戦略を採用するのが当然ではないか──。

 その後1999年に、モンサント・カンパニーに勤務していた昔の教え子から、同社に関するペインウェバー・アンド・カンパニーのアナリスト・リポートが送られてきた。当時のモンサントは、「生命科学(ライフ・サイエンス)」の名の下に多様な事業を展開し、化学とバイオテクノロジーを駆使して、革新的な農産物、種子、食品成分、医薬品を開発していた。この戦略は、事業部間でR&D成果の価値を共有できる、という理屈に基づいていた。また、「医薬品や農業バイオテクノロジーといった事業は、化学事業よりも格段に高い成長率が見込まれる」という考えからも、多様な事業を展開する戦略が取られていたという。

 ところが資本市場はこの戦略を好感しなかった。アナリストたちは、多様な事業を一まとめにしておく意義は小さいと見て、モンサントに事業分割を催促するようになった。この動きは、モンサントが有力商品となりうる関節炎治療薬〈セレブレックス〉を発売したことも一因となって、いっそう加速した。農業バイオテクノロジーは株価の足を引っ張るというのが投資家の見方だった。しかし、事業分割が望ましいとされた理由はそれだけではなかった。ペインウェバーのアナリストはこう記している。