経済思想に見られる3つの変化

 5年前、世界の金融システムは崩壊の瀬戸際にあった。経済やファイナンスの世界の仕組みをめぐる通説も崩れそうに思われた。

 何十年にもわたって経済思想を支配してきた基本的な考え方は、市場は機能する、というものだった。価格が適正であれば必ず買い手と売り手が見つかり、適正価格は一握りの政府の役人が決めるよりも、多数の買い手と売り手が決めたほうがはるかによい、と考えられてきた。

 しかし2007年夏、モーゲージ証券市場の一部が機能しなくなった。買い手と売り手の間でどうしても価格の折り合いがつかず、この行き詰まりはすぐにほかの債券市場にも波及した。銀行は互いの支払い能力を疑い出し、信頼感は消滅した。2008年後半に各国政府が介入し、大手銀行が破綻しないことを保証すると、ようやく金融市場は落ち着き、断続的ながらも再び機能し始めた。