消費者自身も気づかないようなニーズをいかに掘り起こすか。このようなインサイトを見出すために、行動観察やビッグデータ活用を始めた企業もある。もう一つのアプローチが、コ・デザイン(Co-design)という手法である。アメリカではコ・デザインに注目する企業が増えており、ヘルスケアの分野にもこうした動きが広がりつつある。共創によるイノベーションは患者や医療スタッフの満足度向上、医療サービスの効率化などに効果を上げている。

行動観察とビッグデータ活用、
もう一つの手法としてのコ・デザイン

 消費者の価値観が多様化し、その行動が絶えず変化する時代。消費者は何を考え、何を求めているのか――。それを知るために、多くの企業が努力を重ねてきた。

 インサイトを得るための道筋はさまざまだが、大きく「虫の目」と「鳥の目」のアプローチに分けられるかもしれない。前者の代表的な取り組みが行動観察だとすると、後者はビッグデータ活用である。

「行動観察は、ターゲットとなるユーザーとの共感を得たり、ユーザー自身が気付いていないニーズを発見するのにベストなアプローチ。一方、ビッグデータは、将来に対してインパクトがあるトレンドを発見したり、現れだしたパターンの目星を付けるベストなアプローチです」と語るのは、オハイオ州立大学デザイン学部准教授のリズ・サンダース氏である。

 二つのアプローチは対極にあるようにも見えるが、共通点もある。観察者と観察対象、分析者と分析対象というように、専門家と消費者を分離してとらえていることだ。これに対して、サンダース氏は早い時期からコ・デザイン(Co-design)というコンセプトと具体的手法を提示してきた。

上平泰輔
大伸社
常務取締役 東京統括担当

「コ・デザインは、デザインを受け取る人自身がデザインプロセスの中に含まれるという、『参画者の考え方(participatory mindset)』で実践されます」とサンダース氏は言う。

 アメリカではコ・デザインを取り入れる企業が増え始めている。その一例が、シンシナティ大学とP&Gの協力により生まれた「Live Well Collaborative」である。このシニア層向け製品・サービスの開発に特化したNPOを訪問した大伸社常務の上平泰輔氏はこう説明する。

「企業の委託を受けて、教授や学生によるチームが編成されます。企業側の担当者も参加し、約三カ月間のプロジェクトを開始。たとえば、学生たちが近隣のシニアと共にワークショップを開き、隠れたニーズ発掘からプロトタイプ開発といった活動が行われます」