競争環境が共創による
イノベーションを促す
ヘルスケアにおける共創の取り組みは、10年ほど前からアメリカを中心に広がってきた。こうした動きの背景には、アメリカ社会に根差した自己責任の文化があると上平氏は見ている。
「日本はよく課題先進国と呼ばれます。主として高齢化の進展を指して使われる言葉ですが、アメリカは別の側面での課題先進国です。さまざまな面で、アメリカは自己責任の国。日本のような国民皆保険制度はありませんし、自分の身は自分で守らなければならない。それは個人にとって、大きな課題です」
そんな意識ゆえに、個人が病院や担当医師を切り換えることも珍しくない。競争にさらされる医療機関の側には、常によりよいサービス、患者の満足を追求する強い動機が生まれる。こうして、ペイシェント・エクスペリエンスという概念が生まれ育ってきた。
アメリカの競争環境が、共創によるイノベーションを促している。それは、社会に対してポジティブなインパクトを与えてもいる。共創の視点を取り入れたイノベーションにより、患者や医療スタッフの満足度を高めつつ、コスト削減を実現した事例も少なくない。
アメリカ最大の非営利医療サービス団体、カイザー・パーマネンテは看護士のシフト交替プロセスを革新することで、医療フタッフが患者から目を離す時間を従来の平均40分から12分に短縮した。すでに行われた看護サービスが、シフト交替後、無駄に繰り返されることもなくなった。いまでは、伝達すべき情報のシステムへの入力はナースステーションではなく、患者のベッドサイドで行われる。このプロセスには患者も参加を求められるので、入力すべき情報のヌケ・モレといったミスの最小化にもつながっている。
翻って日本社会を見ると、医療費の抑制、医療サービスの効率化は喫緊の課題だ。上平氏は「ペイシェント・エクスペリエンスを重視する動きは、いずれ日本でも大きくなるのではないか」という。医療の抱える大きな課題に取り組むうえで、競争と共創は重要なカギを握っている。
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