従業員の健康増進に投資するメリットとは

 ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)では1995年以降、従業員に占める喫煙者の比率が3分の1以下に低下した。高血圧や運動不足の症状を示す人も半分以下になった。たしかに素晴らしい成果ではあるが、はたしてマネジャーにとって重要なのだろうか。従業員の人間関係、メンタル、身体の健康増進を目指す総合的な取り組みに戦略的に投資をすると、プラスの成果が得られることがわかっている。J&Jの上層部は、健康増進プログラムの恩恵により、過去10年間に累計で2億5000万ドルもの医療費が節減でき、2002年から2008年にかけて1ドル当たり2.71ドルの投資収益が得られた、と推計している。

 健康増進プログラムはともすると、あくまでも付加的なもので、戦略上の必須事項ではないと見なされてきた。しかし、最近のデータは異なる事実を示している。アメリカでは労働人口の高齢化とともに医療費が増加の一途をたどり、莫大な金額に達しているが、新たに制定された医療関連法規の下、健康増進プログラムを導入した企業は税制上のインセンティブや補助金を得られるのである。

 政府によるインセンティブの有無にかかわらず、従業員の健康増進は企業のコスト軽減につながることは、リチャード・ミラニとカール・ラビーの研究によって例証されている。この研究は、ある企業の従業員のなかから無作為に抽出した185人とその配偶者を対象としている。被験者は心臓に疾患があったわけではないが、専門家チームから心臓病のリハビリと運動訓練を受けた。研究開始時に、体脂肪率、血圧、不安などの指標を基に「高リスク」とされた被験者の57%は、6カ月間のプログラム終了時点で「低リスク」へと改善していた。そのうえ、被験者1人当たりの医療費請求額は対前年比で1421ドル減少していた。他の従業員にはこのような改善は見られなかった。こうして、専門家による指導の結果、その費用1ドル当たりの医療費節減額は6ドルに上ったのである。