企業不動産を戦略課題として取り組む

 周囲を見渡してみてほしい。足下には大地、すなわち不動産[注1]がある。不動産は、どこにでもあり、またなくてはならないものである。大半の企業にとって、不動産は、帳簿上一、二を争う大きな資産である。ところが、至るところにあるため、軽視されがちだ。また、一口に不動産の管理と言っても、顧客、社員、投資家、規制当局、地域社会に影響を及ぼすため、一筋縄ではいかない。

 取締役と経営陣らが不動産管理という課題に取り組むうえで、その一助となる5つの原則について解説することが本稿の目的である。

 企業不動産(CRE)は、ビジネス上不可欠であるばかりか、戦略的な資源でもある。しかし、経営陣が関心を示すことはめったにない。多くの組織において、不動産は、スタッフ部門が言われて初めて取り組むものであり、いまだ二の次にされている。また、広範な戦略課題というより、もっぱら特例的なプロジェクトや取引と考えられている。

 立地やレイアウトの決定は、目先のニーズとこれまでの経験に基づいて、事業部門の判断に委ねられている。また、顧客や社員の意向よりも本社に近いことが優先される場合もある。

 以下で論じる5原則は、不動産の専門家のためではなく、彼らに要求を伝えるリーダーのためのものであり、したがって経営陣が理解すべき問題に焦点を当てている。

[原則(1)]
ポートフォリオで管理する

 企業の場合、個々の不動産を合計することより、保有不動産のポートフォリオを組むことのほうが重要である。これを作成するには、経営陣が自社不動産の現状について詳しく知っておく必要があるが(囲み「リミテッド・ブランズの取り組み」を参照)、このような情報は、スタッフ部門がもっぱら重視し、システマティックに作成される分析からは得られない。

リミテッド・ブランズの取り組み

 不動産に関する知識を得ること、すなわちデータを丹念に収集したことで、リミテッド・ブランズは、店舗別やブランド別ではなく、店舗全体(3000店舗強)と7つのブランドに基づいて、商業モール・ディベロッパーと交渉すべきであると悟った。

 小売店の場合、その賃貸契約の一部は、店舗の業績やブランド力を前提にしているため、リミテッド・ブランズはディベロッパーに対して、保有不動産に占める自社店舗の数(400店舗強)、そしてこれら自社店舗のポートフォリオ全体のパフォーマンスを見せ、かつこれを業界や競合他社と比較することで、交渉を優位に進めることができた。その結果、有利な契約条件を引き出し、好立地を確保した。

 経営陣には、立地、土地や建物のタイプ、主要施設の用途や状況、賃貸期間や施設運営費、財務リスクや環境リスクなど、保有不動産の言わば「スナップ写真」が必要である。同時に、どこに不動産投資し、どうすれば保有不動産の価値を変えられるのかについて、企業戦略に基づくダイナミックなビジョンが要求される。

 チャート、地図、写真などを用いて、先の「スナップ写真」と、自社の既存ニーズと潜在的ニーズを踏まえた複数のシナリオからなる「ムービー」を比較分析してみれば、あるところでは床面積が過剰で、別のところでは不足している、またある地域では間違った使われ方がされているなど、アンバランスの存在が明らかになるだろう。