「ベジプロバイダー」という信頼の構築者

石倉 加藤さんが取り組んでおられる「ベジプロバイダー」というのは、とても興味深いですね。生産者と購買者の間に立ち、現場密着型で直接取引を成立させ、品質管理を指導し、そして生産者の育成やマーケティングなども行う。ベジプロバイダーというこのアイデアは、どんなきっかけで生まれたのですか。

加藤 2009年に農業ビジネスを支援する「エムスクエア・ラボ」を起ち上げ、静岡県の農業情報をネットに発信し始めたのですが、その延長で、各農家が出荷する農産物を、卸の役目を担う加工農家に回し、最終的に大手メーカーに販売するお手伝いも始めました。ところが、卸役の農家が倒産してしまったことから、卸は薄利で大きなリスクを背負いながら仕事をしていたことが分かりました。これではいけない、と農業の流通に関わるリスクを減らし、安定供給を可能にする仕組みを構築できないかと考え、行き着いたのがベジプロバイダーでした。

石倉 ベジプロバイダーは、今どのくらいの人数ですか。

加藤 今は静岡に2人、地方にも連絡を取り合っている人が数人います。対象農家は90軒ぐらいで、取引先は50軒ぐらいですね。

石倉 事業としては、上手くいっているのですか。

加藤 やっと成功事例が生まれてきています。例えば、東京のあるレストランが、調達する野菜をベジプロバイダーの野菜に切り替えてから、1店でこんなに買ってもらってよいのかというほどの注文規模になりました。理由を聞いてみると、リピーター客が増えたというのです。お客さんは、新鮮な野菜が食べたかった。次に来ると、また違った野菜が食べられる。シェフが農家を訪ねてくれて、「こんなに売上が増えました」と感謝するという好循環が生まれたのです。シェフの訪問となると、農家の人もうれしいですよね。

石倉 ベジプロバイダーを介して生産者と購買者がつながり、信頼関係が構築されたということですね。そういってしまうと、当たり前のようだけど、それが驚きに感じられるところが、日本の農業の現状なんですね。

加藤 本当に、そうなんです。そもそも生産者と購買者の間には情報のつながりがなく、青果物は卸業者経由で市場に出て、市場の相場動向に左右されて売値が決まります。購買者も、市場の価格でしか見ていません。その結果、どんなに良い野菜でも市場価格に翻弄され、100円で売れる物が50円になったり、150円になったりもします。それが農業経営のもの凄いリスクとして農家の収入を大きく左右していたのです。現状の需要をしっかりつかみ、相対と市場をバランスよく取引している農家は儲かっています。

石倉 つまり、売れる価格で売れる先を見つければ、市場リスクは回避できる、ということですね。

加藤 優れた青果物を作る農家が、それに見合う本来の価値を手にできるようにすることが大切だと思うのです。そのため市場リスクを回避する基本は人海戦術です。「台風で畑の様子が変わった」「考えていた日に納品できるほど成育していない」といった農業の「現場」情報は、ベジプロバイダーが購買者に直接連絡し、そこで出た要望を生産者にフィードバックするというような仕組みが必要なのだと思います。

石倉 私も野菜の宅配サービスを利用していますが、消費者の立場から考えても、悪天候の時などはまとまった野菜を集めるのは大変なんだろう、と思います。以前頼んでいた宅配サービスは、商品を選ぶことができず、見たことも聞いたこともない「何、これ?」という野菜が入っていたりして、新しいものに触れる、試す機会にはなっていたのですが、しばらくやったら新しいものにチャレンジするのにも「疲れて」きたので、宅配日程や時間、ほしい商品を選ぶことができるサービスに変えました。(笑)

加藤 ベジプロバイダーは、一般消費者ではなく、レストランを中心に営業活動をしているのですが、その理由は、レストランでは、高級食材であればあるほど融通が利くからなのです。例えば、小松菜の生育が悪いと分かれば、別の野菜でなんとかできないかと生産者も購買者も考えます。手に入る野菜で美味しいものを作るのがシェフの腕の見せ所ですし、生産者にすれば「今回は、これでつなげられないか」という供給責任を果たせ、販売機会を失うリスクを回避できます。両者の間に持ちつ持たれつの関係を作ることが大事で、それができないと結局、野菜を市場に出さざるを得なくなり市場価格に翻弄される姿に戻ってしまいます。

石倉 丁寧に作り込んだ野菜を、市場に翻弄されない、その商品の「本来の価値」で流通するために、生産者と購買者の間に入って品質管理も含めて担う。それがベジプロバイダーということですね。ところでエムスクエア・ラボは、どこから収入を得るのですか。

加藤 販売量に応じた手数料か、もしくはコンサルタントとしてのサポート料です。私としてはサポート料の方がすっきりとしているし、このウエートを高めたいと考えています。