その土地ならではの特殊性を究める

加藤 ITを駆使したスマート農業への転換はまだ無理、と言いましたのは、ITに対する理解力が不十分なだけでなく、南北に長い地形である日本の農業条件はさまざまであって、単純に成功例を移植できない、という問題があるからです。例えば、同じ静岡県でも富士山の麓では火山灰土、西部の台地は赤土で、ハウスでのトマト栽培のノウハウがまったく違っています。オランダで成功したハウストマトの栽培法が日本に紹介されたことがあるのですが、日本の土壌に適応するのに3年はかかりました。ただ、多様で複雑な日本の農業条件は、私は逆に強みだとも思っています。

石倉 つまり異なる条件に合わせたノウハウを、それぞれの地域で究めることで、どんな条件の農地にでも転用できるような可能性が広がる、ということですか。

加藤 そうなんです。例えば富士通さんが取り組んでいる農業システムでは、野菜づくりの基本的な要素は、パソコンで言えば基本OSみたいなものとして規定し、その上に北海道のどこそこならばこう、静岡県ならばこう、と「北海道アプリ」「静岡アプリ」といった具合に地域アプリとして載せる仕組みづくりをめざしています。
 これが確立すると、多様な条件そのものを売り物にできます。アジアなら九州アプリ、ロシアならば北海道アプリはいかがですか、といった具合で、見本市を開いてベストマッチになる所に売り込もうなどと盛り上がっています(笑)

石倉 実に面白いですね。ニッチの集合体ということになりますね。

加藤 こうした経験から、「カスタムではなく、一般化しないと物は売れない」というのは間違いだ、という大きな教訓が得られます。たとえば、山形県鶴岡市のある農家では、種を自家採取しています。最も実りが良かった畑で採れた種を、翌年もまく。そうすると、その畑に適した強い品種になります。これが強い農業をつくる基本的で優れた取り組みですね。

石倉 農業を初めとして産業には、地域ベースが基本というものがまだかなりあります。ですからその地域のユニークさが競争力の基盤なのに、何となく一般化されたアプローチが正しいと思ってしまう。現場の具体的で細かい活動の経験や教訓をいかしていくべきなのに、中途半端にまとめようとしてしまうということが往々にしてあります。全体を見ることは大事ですが、同時に、深掘りするところは徹底的に深掘りしたほうが具体的な解決案に結びつくと思んですけど。

加藤 どうしても一般化してしまいがちです。地域なら地域の特性を最大限生かす形で展開できる方法を探れば良いと思うのですが。

石倉 ITを活用して地域のユニークさや農業をグローバルに発信する。それが不可能ではなくなっていることにもっと着目しなければいけないのでしょうね。農業のグローバル化も、加藤さんのような視点で考えられると、新しい可能性が広がりますね。