石倉 ところで、基本に戻りますが、青果物の費用、収益はどのような構造になっているのでしょうか。

加藤 品物によって違いますが、平均的には、末端の売上額を100とすると生産者の取り分は約43%です。小売の営業経費が24.4%で、残り32.6%が流通費用で、うち17.9%が卸・販売経費です。契約取引にして、この約18%のうちの5%をベジプロバイダーがいただくと、13%分を生産者や消費者に還元できることになります。
 東京の大田市場の卸価格で試算してみたのですが、契約取引にした方が、市場価格の乱高下に翻弄されるよりも確実に生産者の利幅が増えていました。

海パン父さんの知見をITがつかむ

石倉 「フィールドサーバー」というIT活用も面白いですね。

加藤 私たちの秘密兵器なんです(笑)。カメラ、日射センサー、放射能測定などもできる各種センサーを搭載していまして、これを生産者の畑に設置してウェブ上で24時間、畑の様子を見ることができます。この遠隔監視システムの利点の1つ目は、生産管理のためにスタッフを派遣するタイミングを決められることです。また購買者は、ネットでいつでも契約農家の畑の様子を見られるので、急激な天候の変化などによる収穫予測の変化をベジプロバイダーと相談できます。
 2つ目に面白いのはアラームを発することです。例えば湿度が下がった日が続くとアラームがなり、水をまかなければとなります。3つ目が、データと栽培日数を合わせて3年ぐらいのデータが蓄積されると、それを栽培マニュアルとして利用できるようになることです。一つ欠点は、高いのでなかなか個々の農家さんへの導入が進まないことです。

石倉 データが集まれば集まるほど、ベテランの持っている技に迫っていけるということですね。ITでモニターすると、これまで培ってきた経験と勘で野菜の状況を的確にとらえることのできる“海パン父さん”の実力が検証される、というお話は、確かにそうだろうな、と思いました。

加藤 実際、袋井市で高級メロンを親子で栽培している農家があるのですが、父親は海パン一丁で作業しています。「なぜ?」と聞いたら、「メロンと会話するためだ」って(笑)。でも息子さんは海パン一丁にはなりたくないのでフィールドサーバーを導入したのですが、サーバーが警告を出しそうになると海パン父さんが水まきに現れるんです。その精度たるや驚愕ものです。人間の長年の知見というのは素晴らしいなと感動すると同時に、海パンおじさんの40年の経験知をきっちりとデータで表すことができたのはうれしかったですね。

石倉 私は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に3年いたのですが、この研究科はテクノロジーが1つの柱だったので、修士論文などでもフィールドサーバーのようなアイデアが良く出てきて、農業へのITの活用として有効ではないか、と感じていました。フィールドサーバーのシステム自体も海外に持って行けるのではないですか。

加藤 国内だけだと限界がありますね。海外でも研究が進んでおり、どんな競争をしていくかが課題です。日本政府も力を入れており、研究成果も出ているのですが、実はノウハウが見える化し過ぎてしまって農家への影響が大きいので、今は実態を隠している状態だそうです。

石倉 ITは、農業に限らず、人が関わらないとできないと思っていたことをドンドン代替するようになっていますが、今後ITが高度化していくと、もっと明らかな流れになると思います。そうなると、農業でも「私にしかできないものは何か」が問われると思うのですが、日本の農業にしかできないものを考えるのは、今の所、ちょっと無理ですか。

加藤 いわゆるスマート農業だと思いますが、今はまだ転換は無理というか時期尚早ではないでしょうか。日本の農業もだいぶ代替わりしてきていますので、これからはITを駆使するような農家が出てくると思います。