一歩だけ「浸み出す」努力で
他者を呼び込む
外から自社の強みや可能性をうまく見つけてもらうためには、ただ待っているだけではだめです。どんなに価値の高い資産でも、原石のままでは発見してもらうのは難しい。だから、ある程度は磨いて、目につきやすいように並べておくことが必要です。
例えば、既存の技術の使われ方を100通りぐらい考えておきます。びっくりするほど新鮮なアイデアはなかなか出てきませんが、この解釈をいったんしておくだけで、市場を呼び込み、多様な可能性を発見してもらいやすくなります。言うなれば、「渡り廊下」をかけておくのです。
このような本業と拡業、現在と未来をつなぐ取り組みは、本業の強みを何に展開できるかを自分たちで考えるのにも有効です。デジタルカメラの普及で本業消失の危機にあった富士フイルムも、この渡り廊下を使って事業構造の転換を成功させました。
当時の古森社長の命を受けた技術者たちは、縦軸に市場、横軸に技術を取ったマトリクスを使って技術の棚卸を始めましたが、右上の第4象限に入るものがなかなか見つからず苦戦をしていたそうです。この2×2のマトリクスはよく使われる一般的なものですが、実際にやってみると、第4象限に当てはまるものを見つけるのは簡単ではありません。
そこで、縦横の新規と既存の間に、隣接する(adjacent)象限をそれぞれ設けた3×3のマトリクスを使ってみることにしたそうです。飛び地にジャンプするのは難しいので、渡り廊下をかけて、まずは隣に伸ばしてみたのですね。すると、いきなり新規に置くのは無理だけれど、中間になら当てはまるものが次々と浮かび上がってきたのです。
この一歩だけ浸み出す努力が積み重なって、全く新しい領域を生み出すことに成功し、最終的には第二の創業に成功しました。
現場が苦しみ、考え抜くことで生まれたこのやり方は、閉塞感を打破できずにいる他の企業に、ぜひ取り入れていただきたい。非連続的な成長は難しくても、一歩ずつ浸み出していってやがて大きく化ける、あるいは外から多様な可能性を発見してもらうのであれば、誰にでも実践できるはずです。
